こんなの、ただの遊びだと思っていた。愛に飢えた子供に無償で愛を与えるだけの、ままごとに似た遊び。 彼は、愛が欲しいときも、戦うときも、いつだって神に祈っていたから。こちらも、この強いようでとても弱い国家を気まぐれで助けてしまったのだ。 あのときのことを、今でも後悔している。どうして、彼の前に実体として現れてしまったのか。どうして、彼が女神と一緒にいることを願うようになってしまったのか。
「好きなんだ」 「聞き飽きたわ」
あなただけを愛するなんて、できるわけないに決まっているでしょう。 こう言えばいつだって、そんなのわからない、と返してくる。考えが若すぎるのだ。
「神々と国家なんて、結ばれないものなのよ。前例もないのに」 「俺たちが最初の例になれるかもしれない」
諦めの悪い子供だ。これはもう、強行突破に出るしかないだろう。こういった力を使うことは好きではないが、仕方がない。
「記憶を消させてもらうわ」 「消したって、また好きになるさ」
何度でも、俺は君を好きになる。 その言葉に返事はせずに、記憶を抜き取る作業に集中する。初めて野原で会ったこと、保護者代わりの者が帰って寂しがっている彼に寄り添ったこと。成長して、独り立ちしようと戦う彼に協力したこと。更に成長して強さと富を手に入れ、それを共に喜んだこと。全部、こちらのことだけを抜き取って、心の中にしまい込む。
「さよなら、可愛いアルフレッド」
最後に今までのやりとりを抜いて、眠らせる。失敗していなければ、起きたらこちらのことなどきれいさっぱり忘れているはずだ。 ステンドグラスの光を浴びながら眠る彼を尻目に教会を出る。讃美歌のメロディが、少しだけ胸に刺さった気がした。
─悲しみの旋律─
(これでいいのよ) (だって、あの子は…アルフレッドは、まだ若いもの)
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