怒るに怒れない







「ん」
「ああ、はい」
「おう」

まるで呼吸をするかのように自然にティッシュを差し出すなまえと、当然のようにそれで口を拭ったギルベルトを見比べて、首を傾げる。この2人は、付き合っているわけではない。むしろ、なまえと付き合っているのは俺なわけで。まあ、その、今俺はとても妬いているわけでして。
それに全く気がつかない様子でいつも通りに過ごしている2人に、苛立ちさえ覚える。

「うっわ、フランシスお前今すげえこええ顔してんぞ!」
「いやいや、そんなことないって」

慌てて否定して、なまえをちらりと見る。きょとんとした顔。見られて、なかったのか。よかった。
ほっとした俺にくっついて、なまえが少しだけ嬉しそうに俺を見上げた。

「妬いたの?」
「…妬かないよ」

ギルベルトとは友達でしょ?
素っ気なかったかな、少し反省しながら隣を見ると、彼女は全く気にする素振りを見せずに今度はプラスチックのアヒルを積み重ね始めて。

「見て!見て見て…っああああああ!ギル!」
「けせせ!ざまあねえな!」

テーブルを揺らしてアヒルを崩したギルベルトに、なまえが飛びかかる。床にしたたかに頭をぶつけたギルベルトが勢いよくクッションを投げ、俺にクリーンヒット。ぼんやりしていて顔面でクッションを受け止めた俺を見て笑い転げる2人に、苦笑が浮かんだ。




─怒るに怒れない─

(なまえ、見たかよ今の!)
(見た見た!吸い込まれてった!)

(あーあ、かわいいなあ)


2012.06.14
仲良しと恋人と

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