幼き君はすべを知らぬ






「痛いよ」

掴まれた腕を軽く振ってみせると、気まずそうな表情の後、そっと手が離された。掴まれていたところが鈍く痛む。赤くなっているのかもしれない。
原因である馬鹿力で可愛い後輩は、唇を噛みしめて俯いている。何か言いたいけれど我慢しているときの癖だ。
ゆっくりと息を吐いて、彼の手をとる。青い瞳がこちらを見て、すぐにそらされた。

「アル、どうしたの?」
「別に。何もないさ」

声音で、冷静さを保とうとしているのがよくわかる。ものすごく怒っているであろうことも。
このまま放っておいてもいいけれど、後味が悪い。

「何もないって…怒ってるじゃない」
「…ああ、怒ってるよ!君が、いろんな男に媚を売るせいでね!」

苦笑を浮かべているだろう私に、彼の怒鳴り声が降りかかる。これは面倒になるパターンだ。私は媚を売った記憶なんてさらさらない。
唯一怒られるふしがあるとするなら、休み時間にクラスメイトの馬鹿3人と楽しく騒いでいたことくらいだろう。

「媚って、ただ話してただけでしょ?」

苛立つ。直接言えばいいのに。他の男と仲良くするな、って。
ちらりと掴まれていた腕を見やると、くっきりと赤い跡がついていた。小さく息を吐いた私に、アルフレッドは更にヒートアップする。

「君、まわりの男にどんな目で見られてるかわかってるのかい?!」

俺が、それを知ってどんな気持ちになったのかも。
ああ、もう、腹が立つ。怒ったような悔しいような顔をしている彼の頬をひっぱたいて、そのまま頬を押さえて愕然としている彼の襟を掴む。

「わかるわけないじゃない」

アルは何も言わなかったでしょ。
自分でも驚くほどに低い声が出た。アルフレッドはショックだったのか、身動きひとつしない。
大人げないな、私。切り替えてさっさと歩き出した私に見えたのは、今にも泣きそうな恋人の表情だった。




─幼き君はすべを知らぬ─

(悪いことしちゃったかな。まあ、いっか)




2012.06.14

余裕がない年下と相手の鈍さに苛立つ年上

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