電話をかけるか否かを数十分に渡って迷いに迷った結果、緊張で冷え切った指先は電話帳から彼女の電話番号を呼び出すことに成功していた。
「…………」
携帯から聞こえる呼び出し音に緊張が募る。直接会うのならどうってことないのに、この緊張感は何なのか。 付き合ったばかりの頃は、まさか自分がこんなに相手に執着するなんて思いもしなかった。なんとなく付き合ったから、離れるとこれまたなんとなく別れるものだと思っていたから。意外すぎて頭がついていかない。 やけに長く続いたように感じた呼び出し音がぶつりと途切れて、ずっと求めていた声が聞こえてくる。
『もしもし』 「あ、俺、ギルベルト、だけど。わかるか?」 『わかるよ』
番号登録してるし。 ばふ、と電話先で音がした。ベッドにでも転がっているのだろうか。
「あー、今何してんだ?」
電話してるに決まってんだろ!自分で自分に突っ込みを入れて、携帯を持ち直す。イヤホンマイク買いてえ。 焦りで頭が変な風に回転して意味がわからない質問をした俺に、抑え目な笑い声が返事をした。
『今、すきなひとと電話してる』 「……うわ、ばかじゃねえの。はっず」 『なに、照れてんの?』 「うっせえばーか」
くすくすと忍び笑いが聞こえて、すでに熱くなっていた頬が更に熱を上げる。ほんと恥ずかしいやつだよなお前、そう言いかけた俺の言葉になまえの比較的真剣な声が重なった。
『で、何の用で電話したの?』
珍しいよね。 言外に何かあったのかと心配している彼女に、ただ声が聞きたかった、と返したらどんな反応をするのだろう。女々しいと笑うだろうか。 どうかした?黙った俺の耳を、優しい声が撫でた。ああ、早く、言わないと。
「…声、が」 『声?』 「声が、聞きたかったんだよ、なまえの」
早口で言いきった俺に、電話先が静まり返る。ややあって、注意していないと聞こえないほどに小さい声が聞こえた。
「あ?聞こえねー」 『…これだけじゃ寂しいから、早く会いに来て、ください』 「え」
聞き返すこともできないまま通話が切れた。意味がわからないままふと鏡に目をやると、真っ赤になった俺が睨み返してきて。持て余した感情をどうすることも出来ず、友人たちの番号を呼び出した。
─おい、聞いてくれ─
(今、なまえと電話したんだけどよ!) (惚気だったら他に言えばええやん) (リア充爆発!リア充爆発!) (こええ!つーか聞けよ!!)
2011.12.23 12月21日が遠距離恋愛の日ときいて
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