言わないでくれ、その先を


※夢オチですが死にます





明らかに、これは夢だ、とわかる夢がある。現実では絶対にあり得ないことが起こっていたり、逆にやけに現実臭かったり。とりあえず、今、この空間の出来事は夢だと言える。俺とこの女が、こんなに和やかに行為を終わらせて、更にその後にこうやって話すようなことができるはずがないのだ。

「これでよかったの?」

汗で貼りついた髪を適当にのけてやると、世間話でもするかのように彼女が口を開いた。理解できずに眉を寄せたこちらに対して、あっちも不機嫌そうに声を発する。

「欲しかったのは、わたしの体だった?」
「…は?」

夢の中でも意味がわからない女だ。今更そんなことを聞いても、何の意味もないだろうに。
黙った俺の反応を迷いと取ったのか、一度息を吐いて、今度はばかみたいに優しい声で問う。

「あなたが望んだのは、こんな関係じゃないでしょう?」
「…!」

体が強張る。一瞬、同じ人間なのかを疑いたくなる程に冷めた表情を浮かべた彼女が、もとのように微笑んだ。慈愛に満ちた瞳が俺を見て、ついでのように指先が頬をなぞる。何もかもを知ったような顔に、沸々と嫌な感情が込み上げた。
それを知らない彼女は、愛おしそうに俺の頬をなぞり続ける。

「ねえ、アーサー・カークランド、」
「黙れ!!」

大声をあげても怯む様子のない彼女の首に手をかける。何度か噛みついたこともあるそこは細くて、あたたかくて、涙が零れた。

「っく、そ…!」

気道を潰そうと指に力を込める度、大粒の涙が彼女に降り注いだ。悔しいのか、悲しいのか、その理由もわからないまま、力を込め続けて、手の上にある顔が赤くなって、彼女ががくりと力を失った。それと同時にはっとして、彼女の手首をとる。あたたかい。けれど鼓動はない。
手の甲に夢の中ではかなりの数になる口付けをする。毎回、こうやってから気づく。前回も、その前も、一番最初のときも、俺はこうやってこいつに口づけた。それで、必ず次こそはこういうことをせずにいこう、と思うのだ。なのに。

「なんで毎回、こうなるんだよ、」

すきなのに。

毎回ろくな抵抗もせずに死んでいくなまえに憎しみさえ覚えてしまう。簡単に抵抗できたはずなのに、彼女はただ微笑んで、首を絞められて、死んでいくのだ。
意識が浮き上がっていくのを感じる。本当にこれを最後にしよう、強く思いながら唇を重ねようとして、目が覚めた。




─言わないでくれ、その先を─

(どんなにお前を欲していても、今更恋人になんかなれないだろ)




2011.12.08
メモから。どんなに許すって言っても思い悩みそう。

<< >>  
もどる