ソファの隅に座りながら鏡で目元を気にするなまえの隣にどかりと座り込んでみたはいいが、先ほどからやたらと睫毛を弄っていて、こちらに一ミリたりとも気がついていない。なんだか癪に触る。自己主張の意味も込めてなまえの腿に頭が乗るように寝転がると、大げさなくらいに飛びはねた。
「っ!!?あ、あー、ギルちゃんか!びっくりした」
ていうか寝るならあっちで寝てよ。 何とかどかそうとしていたなまえも、頑として動かない俺の意思の強さに負けたのか、鏡を置いて。仕方ないなあ、なんて言って今度は俺の髪を弄りながらどうでもいい話をし始めた。
「ギルちゃん睫毛長いね。いいなー。ビューラーやってみる?」 「意味わかんねえ」 「ビューラーだよビューラー。ギルちゃんがイケメンから超絶イケメンになれる魔法の道具!」
はいはいそうかよ。適当に流して瞼を閉じる。 こういう風に生き生きしているときのなまえに関わって、いいことがあった試しがない。程なくしてやってきた眠気に身を委ねようとした、その時。
「っうぎゃあああああ!!!」 「ああああ!!」
急に瞼に痛みが走って叫びながら転がりかけた俺になまえが跳ねて、アンバランスな状況だった俺がソファから落ち、ごん、と床に頭を打ち付けた。痛い。あまりの痛みに眠気はどっかに行ってしまった。瞼もものすごく痛い。何されたんだ、俺。
「何だよ今の!むちゃくちゃ痛かったぞ!」 「…ビューラー」
手に持ったものを見せられて、ぞっとした。銀色のハサミに似た手持ちの先に、シリコンを使って切れなくした爪切りのようなものがついている。 何だあれ、ハサミか?でもあの状態だと切れねえよな。だったら何だ?まぶたはさみ器?何のために?もももしかして!
「おおおお前、俺様の睫毛をツケマとやらにするつもりだったんだろ!」 「つけマなら自分で買うって」
ギルちゃん寝ぼけてんの? 呆れたような表情に、こっちも力が抜ける。結局、ビューラーの正体はわからずじまいだ。
─理不尽だ─
(ビューラーだめならマスカラしよマスカラ!) (嫌に決まってんだろ!)
2011.11.27 瞼挟むとむちゃくちゃ痛いよねって話
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