これのつづき
貰ったのを思い出して口に入れた飴は、言葉にするのも難しいほどに恐ろしい味がした。例えるなら、たくさんの種類の体に良さそうな草をすり潰して、とりあえず砂糖を入れて煮込んで、汁を固めたような。どうして市販したのか、どうしてこんなものを思いついてしまったのかを小一時間問いたいような、そんな味。 むしろ、どうして彼はこれを買ったのだろう。味覚音痴もここまでくると尊敬できそうだ。絶対しないけど。 感想を求めているのか、ちらちらと見てくる会長に、できるだけ笑いかける。
「…すっごくまずいですね、これ」
吐きそうなレベルです。 全力でオブラートに包んだはずの発言に、ベースばりに素晴らしい眉毛が跳ね上がった。 もう一回言えよ、とでも言うかのように会長の右眉毛が震えたので、優しい声音で言い直してみる。
「全然おいしくないので、出してもいいですか」 「もったいねえだろ」 「うわあ会長貧乏臭い」
でもほら、こっそり捨てますから、ね?いいでしょ? 喋っている間にも、あまりの味に口の中がしわしわしてくる。早く出さないと全身の水分がなくなってしまうような気さえしてきた。
「仕方ねえな。…口開けたまま動くなよ」
ぽかん、と間抜けに口を開いた私の顎が支えられる。いい笑顔だ。嫌な予感しかしない。 あ、これ、もしかして、指突っ込まれるの? 嫌な予感の内容を冷静に考えているうちに、顔が近づく。 あれ、ちょっと、これは、違、…え? 近づいて、近づいて、少しだけ顔を傾けた会長と間抜けなままの私との距離がゼロになる。むしろ、マイナス。ぼんやりしているうちに、ぬるりとしたものが入ってきて、口内の飴が拐われていった。そのついでにしわしわになっていた粘膜をなぞられて、やっと理解した。これ、会長の舌だ。
「…っ、っ!」
会長を押し返して、ソファの端まで慌てて後ずさる。耳も、顔も熱い。何よりも、唇が、熱い。 恥ずかしさやら何やらで潤む視界の中で、滅多に見られないほどの会長のドヤ顔が見えた。
─バッドテイスト!─
(な、に、すん、ですか) (何って、飴食っただけだろ)
2011.11.23 付き合ってはいるけれど進展しないような。
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