「…うそだろ…」
誰かこれは夢だと言ってくれ。 俺は昨日から遠方の慎ましやかな友人である菊の家に訪れていて、そこには当然のようにその恋人のなまえ(詳しく聞いたことはないが、やりとりからするとおそらく恋人同士なのだろう)もいて。和やかに食事をし、広いフロに入らせてもらい、俺は客間に敷かれたフトンで少し眠ったけれどなんだか目が覚めて。時計を見ると夜中で。喉が渇いた気がしたからキッチンに向かうために菊の部屋の前を通ろうとして、今。 押し殺したような女の声と静かな友人の声に、俺は立ち尽くしている。
「…め、です…!」 「大丈夫ですよ、アーサーさんなら今頃寝ていられるはずですから」
寝てねえよ。心の中で突っ込みながら、頭は目まぐるしく回転していた。 立ち去ろうにも、物音を立てようものならニンジャである(アルフレッドが言っているのを聞いたときは半信半疑だったが、本人も言っていたのだからきっと本当なのだと思う)菊に見つかってしまう。間が悪ければドゲザだけでは済まずにキリハラさせられるかもしれない。キリハラ。恐ろしい行為だ。優しい友人のことだから、きっとカイシャクしてくれるだろうけど。 そうこうしている間に、障子の先から熱を帯びた声が漏れてきて。生々しい情事の音が聞こえてしまわないよう、極力音を立てずに全速力で部屋へ戻った。
─嫌な光景─
(菊と、なまえが、そんな、) (くそ、喉渇いた)
2011.11.03
こんなことばかり書いていますが、私は眉毛さんが大好きです。
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