「…おら」
不機嫌そうな声に顔を上げると、テーブルを挟んだ向かいのソファに座った生徒会長が、何やら手に握ったものを私に渡そうとしているところだった。まさか、いつぞやのように生徒会室からは程遠い食堂にある自動販売機まで紅茶を買いに行けと言おうとしているのか。絶対嫌だ。ていうか、おらって何。やけに眉毛が太いと思ってたら田舎者なのこの人。実家に帰れ。実家の畑で楽しく耕しながら種でも蒔いてろよ。 とめどなく頭の中で流れる目の前の存在への悪態をどうにか飲み込んで、真面目な顔をつくる。
「会長、一人称おらでしたっけ」 「そんなわけねえだろ」
これ。 差し出されたそれを手にとって見てみる。見れば見るほど、それは正直よく見るタイプの飴で。どうしたらいいかわからず、とりあえず見たままのことを言ってみる。
「飴ですか」 「のど飴だ」 「それはわかります」
なんでまた急に? 彼が飴が好きだなんて話は聞いたことがない。好きだったらきっと生徒会室にはたくさんあるようになるだろうし、ほかの女子からのプレゼントもおのずと飴が多くなるはずだから。それとも、急に食べたくなったのだろうか。だったら私に渡す理由がわからない。 あ、もしかして。不意に声を上げた私を、緑の目が捉えた。続きを促しているらしい。
「この飴、まずいものなんでしょ?」
これなら納得できる。常日頃憎まれ口ばかり叩いている後輩に与えるものなんて、まずいものに決まっている。警戒しながら相手を見ると、面倒そうに口を開いた。
「喉痛いんだろ、お前。だから、今日コンビニでたくさん買ったついでに、」 「…たくさん買ったのにシールなんですか?」
今日はシールの気分だったんだよ。 苦しい言い訳をしながら窓の外を眺める彼の耳が赤いことに気がついていたけれど、指摘すると仕事を増やされそうな気がして、書きかけのプリントにとりかかった。
─※お口の中に入れないで下さい─
(これ、ほんとに危険物じゃないよね…) (危険物なわけねえだろ。今朝買ってきたんだから) (うわ、聞いてたんですか)
2011.11.01
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