今日は5時にはここを出なければいけないのに、うっかりしていた。 ぱちりと目を開いて携帯を見ると、時刻は4時で。同時に視界に入った黒髪に心臓が急稼働する。
「…なまえ」
すみません、雑魚寝になってしまって。申し訳なさそうにそう言っていた家主である友人を思い出しながら、起きる気配のない彼女を眺める。普段気が強いものだから、寝顔なんて見る機会がないと思っていた。 そんな得意げな気持ちに浸っていると、なまえがもぞもぞと動き出して。
「…さむい」 「え」
唯一あった掛け布団1枚の隔てを無視して擦り寄ってくる。これはまずい。 どうしよう、とおろおろしている間になまえの体が俺に触れ、大慌てで布団から抜け出した。
「ちょっと、待ってって」
俺だって男なんだよ。 寝惚けている彼女に伝わっているのかいないのかはわからないけれど、とにかく注意しながら少し離れた場所に座り込む。 完全に目が覚めたのはいいけど、なまえは警戒心なさすぎだよ。気持ちの整理も兼ねて深呼吸していると、誰かの手が足に触れて。あからさまにびっくりした俺を、眠そうな目が捉えた。
「どこ、いくの」
聞いたこともないようなか細い声だった。信じられない状況に狼狽える俺の手に触れて、小さい声が空気に溶ける。
「…手」 「て?」 「…手、つないでて」
純粋で甘い誘惑に、目眩がした。
─絡み合う指─
(っていうことが今朝あったんだー) (夢とかじゃなくて?) (うん。だって俺襲っちゃうとこだったし) (…えっ) (俺も男だからね、注意しないとだめだよ?)
2011.10.16 幼馴染の証言から。ごめんね、ほんとに覚えてない。
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