とある夏の日の告白




「ーーお前、女としてそれはどうなんだよ」
「あれ、伏黒くんもう帰ってきたの」



 とある、蒸し暑い夏の日のこと。
 体を動かしたいと言って、少し前に虎杖くんや野薔薇ちゃんと一緒に外に出たはずの彼が、いつの間にか教室の扉の側に立っていた。

 伏黒くんの言葉には答えずに質問で返してしまったからだろうか。見るからに不機嫌になった彼に、仕方なく話を元に戻す。



「だってクソ暑いでしょ、今日。今年最高気温なんだって」
「だからどうしてそうなるんだ……」
「男子には分かんないんだよ、この地獄」



 伏黒くんの言う、『それ』とか『そうなる』とか言うのは、たった今までわたしがしていた行為のことだ。

 基本的に、呪術師が素肌を出すのは宜しくない。まあ野薔薇ちゃんみたいにお洒落さんだと、普通に手足を晒していたりするけれど、わたしは律儀に夏場も長袖にタイツ姿だった。
 そういう訳で、完全防備のわたしがクーラーが効いている室内とはいえ、耐えられるはずもなく。上着を脱いでシャツ姿になっているのは勿論の事、下敷きでスカートの中を扇ぐという凡そ淑女らしからぬ行動に出ていた。

 どうやらそれが、伏黒くんの気に触ったらしい。



「暑いのは分かるが、もう止めとけよ。虎杖だっていつ戻ってくるか分からねぇんだから」
「ええ……別に気にしないよ、わたし」
「いや、気にしろよ」



 伏黒くんの言う事は多分正論だし、わたしも頭では分かっているんだけれど。何故それを素直に聞き入れないのかと言われれば、少々、不満があるからだ。



「それに、虎杖の方は気にするだろ。部屋にグラビアポスター貼ってるくらいだし」
「……伏黒くんは?」
「は?」
「伏黒くんは、気にしないの?さっきから虎杖くんか、わたしの体裁の事ばっかり」



 わたしは、伏黒くんの事が知りたいのに。

 いつだったか、虎杖くんや野薔薇ちゃんが『自分のことを話さなさすぎる』と怒っていた。その時は、『そういう所が伏黒くんらしい』と思ったものだ。けれど、今は二人の気持ちがよくわかる。

 まさか自分に振られるとは思わなかったのか、伏黒くんはふいとそっぽを向いた。



「……別に、俺の事はどうでもいいだろ」
「良くないよ。はしたないって、変な奴って思った?でもね、わたし……『揺るがない人間性』は持ってると思うんだけど」
「!」



 その言葉を聞いた伏黒くんは即座に首をぐるんと回して、わたしを見た。わたしがどういうつもりで放ったセリフなのか、図りかねているのだろう。
 今わたしが言った言葉は、東堂先輩に女性の好みを質問されたときの、伏黒くんの答えだから。

 伏黒くんの黒くて、艶やかな瞳がわたしの姿を捉える。わたしは急に照れくさくなった。頬が紅潮して、体温が上昇していくのが分かる。



「……ごめん、やっぱり何でもないや」



 目線から逃れたくて、勢いよく立ち上がると、そのまま教室を出て行こうーーとした。



「ちょっと待て。……何でもなくは、無いだろ」



 それを阻んだのは、言わずもがな伏黒くんで。いつの間にか、腕を捕まえられていた。
 自分で勝手に暴走して自爆しておいて、どうしてあんな事言っちゃったんだろう、という思いが募った。



「……好きだ」
「ーーえ」



 そんな思考が吹き飛ぶくらい、唐突に耳に入って来た言葉。今度はわたしが驚く番だった。背けていたかったはずの顔を、伏黒くんの方に向ける。

 すると、彼の顔は耳まで赤く染まっていた。先刻までのわたしも、きっとこんなだったんだろう。

 伏黒くんは口数が多くない。容姿はかっこいいけど、こういう事を言うのは慣れてない、と思う。きっと、たぶん、恐らく。その言葉を口にするのに、彼の中で色んな葛藤と戦ったはずだ。わたしには、それが……そう思ってくれた事がーー



「……嬉しい。そんなに赤くなるくらいなら、無理しなくても良いのに」



 素直に思った事を告げれば、伏黒くんは拗ねたように唇を尖らせた。



「お前にそこまで言わせといて逃げるのは、格好つかなさ過ぎるだろ」
「ふふ、そうかも」
「オイ」



 そんな彼が少し可愛いと思えてしまって、笑みを崩せずにいると、伏黒くんはふと真顔に戻った。



「これからは気を付けろよ。『俺が』気にする」



 それは、不満なんて生まれようのない…こうであったらいいと願った台詞そのもので。



「………うん、わかった」



 頷く以外の選択肢なんて、ある筈が無いのだった。

 なお、このやり取りは虎杖くんや野薔薇ちゃん、そして何故か五条先生にまで聞かれてしまっていたらしく。瞬く間に先輩たちにも伝わり、暫くの間、わたし達(主に伏黒くん)はからかわれる羽目になったのだった。





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