Shall we OHANAMI!!



 花見がしたい。

 そう思ってしまったのは、大学の正門近くを歩くたび、ふんわりと漂う桜の花びらと、のどかな春の香りに触発されたから。

 つまり、不可抗力だ。



「ハァ?花見?行きたいなら勝手に行けばいいだろ」
「日吉は絶対そう言うと思ったけどさぁ……」



 という訳で中学時代からの友人、日吉若を誘ってみるも、見事玉砕した。どう考えても日吉がノリノリで乗ってくるとは思えなかったけど、こうもバッサリ断られてしまうとは。

 項垂れて唇を尖らせるも、日吉には効果はない。



「行こうよ、きっと今が一番綺麗な時期だよ!何なら私がお弁当作るし」
「本気でそれで俺を釣れると思ってるなら、とんだお花畑だな」
「……お花見だけに?」
「…………」



 途端、日吉の視線がいつもの十倍冷たくなった。これは私が悪い。自分でもやらかしたと思った。

 「ごめんごめん」と謝ると、日吉はフンと鼻を鳴らした。完全に期限を損ねてしまったようだ。



「もー!!分かったよ。一応、日吉にも日時は教えるから、来れそうだったら来て!」
「お前の友達の所に俺が混ざれる訳ないだろ」
「大丈夫!日吉が話しやすい人しか誘ってないから!」

「……オイ苗字、お前何企んでる」
「いやぁ、企んでなんて……」
「正直に言った方が身のためだぞ」
「……跡部さん達にちょっと話してみたら、意外とあの人たち乗り気だったんだよねー」



 じっとりと睨んでくる日吉に根負けして、仕方なく本当のことを話す事にした。普通に誘っても日吉が来ない事は分かりきっていたので、外堀から埋めようと思ったのだ。

 日吉と長太郎を通して、私も元氷帝学園のテニス部メンバーとはそこそこ交流がある。加えて、運のいい事に海外を飛び回って修行中の跡部さんがたまたま日本に帰ってくる予定があるというのだ。

 そこで、今回の話がトントン拍子に進んだのだ。



「……まさか」
「ああ、うん、日吉以外は皆来るらしいよ。まだ学期初めだし、上手いこと予定が合ったみたいで」
「…………」



 本当は跡部さんたちに会えることは、日吉が来た時のサプライズにしようと思っていた。毎日顔を合わせていた頃とは違い、そうそう皆で集まれる機会も無いし、表に出すかどうかはともかく嬉しいだろうし。

 けれど、日吉に勘づかれて睨まれた以上、今素直に言っておかないと後が怖い。ホラー映画鑑賞会が開催され、睡眠不足になる。



「言っておくが、次の日曜は見るからな」
「ええ!!ちゃんと話したのに!」
「企画する前に話さなかったら、意味無いんだよ」
「うっ……」

「大体、跡部さん達のことを黙っていて、俺が行かなかったらどうするつもりだったんだ」
「えー、日吉は来るよ。何だかんだ言っても」
「ハァ、一体どこから来るんだ、その自信は……」
「だって日吉だし」



 私の答えに、もう一度日吉がため息をついた。

 自覚がないのか、認めたくないのかは分からないけど、日吉は優しい。お小言は多いし、ホラー映画は見せられるけど。それもこれも、大体が私の身を案じてのものだったりする。

 幼稚舎から大学まで、ずっと同じの長い付き合い。長太郎も同じくらい長いけど、日吉とは何の縁か、クラスが同じ確率が異常に高かった。それだけの年月を共に過ごしているのだから、言葉にしなくても伝わってしまうことは多い。お互いに。



「行ってやってもいいが、お前は飲まずに大人しくしとけよ」
「なんで!花見で飲まないとか嘘でしょ」
「酔ったら抱きつき魔になる馬鹿は何処のどいつだ」
「いーじゃん酔っても!知った仲の人ばっかりだし」



 流石に、サークルで行くとか、ゼミのメンバーで、とかなら先輩たちに迷惑をかける訳にもいかないので、自粛するけれど。

 初めて一緒にお酒を飲める人もいる訳だし、飲むつもりでしか無かった。



「そんなに飲みたいなら、また俺が付き合ってやる」
「えっ、二人でも花見してくれるの!?」
「は?いや、俺はーー」
「やった!これは腕によりをかけてお弁当作らないとね。今年は二回もお花見できる!」



 まさかまさかの日吉の一言に、有頂天になってしまって、一人で拳を作って気合を入れる。

 ふと我に返ると、日吉が何か言いたげな顔をしてこちらを見ていた。



「ごめん、聞いてなかったんだけど……もしかして何か言ってた?」
「……何でもない」



 それだけ言うと、ふい、と顔を背けてしまう。何か言いたそうだったのは気のせいでは無いと思うけど、また言いたくなったら日吉の方から言ってくれるだろう。

 今はそれよりも、普段こういうことに積極的でない日吉がノってくれたのがとにかく嬉しかった。






*


「なぁ侑士、結局声掛けられなかったけどよ、アイツらマジで付き合ってねぇの?」
「これが付き合ってないねん。一体何年すったもんだしたら気ぃ済むんやろな」

 いつの間にか、私たちの背後にいた先輩たちが、タイミングを逃して、いつの間にか去ってしまっていたのだけれど、私は全く気が付かなかった。



back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -