○○についての考察


*原作軸夏の日からそれなりに時は経っているのに、何故かそこそこ平和な世界線




 わたしが言うのも何だけれど、わたしの恋人は凄くかっこいい。
 外見が、というのも勿論そうだし、クールそうに見えて芯があって熱くて、それでいて無茶をしてしまう危うさがあるから離れ難い。そしていつもわたしの事を考えてくれている、素敵な彼氏だ。

 両想いだと分かり、お付き合いが始まったのは、二つ前の季節の事だ。前振りも段取りもない、半ばハプニングみたいな勢いだったから、広まるのも早かった。
 わたしも恵くんも、自分からは誰にも伝えていないはずなのに、いつの間にか京都校の人達にも知られていた時はちょっと恥ずかしかった。


「ええ!!二人、付き合ってたの!?おめでとう!」
「あ、ありがとうございます!乙骨先輩」


 だからだろうか。彼のような反応をされるのはとても新鮮で、何だか浮かれてしまう。まるで付き合いたての頃に戻ったみたいだ。
 乙骨先輩は暫く海外に行っていたし、帰ってきた頃には日本全体がバタバタしていたせいか、彼とゆっくり話をすること自体、かなり久しぶりだ。


「本当、乙骨先輩にはどれだけお世話になったことか……」
「いやぁ、大袈裟だよ。二人がお似合いなのは分かっていたし、僕がした事なんて、苗字さんの話をただ聞いていたくらいで」
「それが凄くありがたいんです!」


 口が固くて、乙女心がよく分かっていて、わたしの悩みに真面目に答えてくれる人。
 大変遺憾ながら、そんな素晴らしい人材は、この呪術高専において、彼の他にいない。こんな事を言うと、某最強の人にクレームを入れられそうだけど、『口が軽い、乙女心のおの字も分からない、軽薄』三拍子揃った大人が何を、と言ってやりたい。
 因みに虎杖は、口の固さが怪しいから駄目だ。上手く言いくるめられて喋りそうで。

 以上の内容を多少端折って伝えると、納得してしまったのか、乙骨先輩はあー、と苦笑いして頬をかいた。


「乙骨先輩」
「「わっ!!」」
「……二人してそんな驚きます?」


 突然わたしの後ろに恵くんが現れて、同時に叫んでしまった。
 きっと恵くんは普通に近付いてきていたのだろうけど、嬉しさに浸っていたからか気付けなかったらしい。それに、ちょうど恵くんも関係する話をしていたし、乙骨先輩が驚いたのはそっちが理由かもしれない。


「ごめんね、気付くのが遅れて。それで、どうしたの?」
「ああ、五条先生が頼みたい事があるそうです。携帯に掛けても出ないって」
「あっ!そうだ僕、ここに携帯充電しに来たんだった」
「すみません!わたしが話し掛けちゃって……」


 乙骨先輩の姿を見かけて、ようやく報告ができると勇んでしまった。完全に本来の目的を忘れさせてしまっていたとは、流石に少し申し訳ない。


「いや、平気だから気にしないで。今から五条先生の所に行ってくるよ」
「五条先生なら、今はグラウンドで他の先輩たちと一緒ですよ」
「ありがとう、伏黒くん。じゃあまたね、二人とも!」


 しかし乙骨先輩は明るくそう言って、軽やかに手を振りながら去っていった。あの様子だと、本当に気にしていなさそうだ。


「何の話してたんだ?」
「気になるの?」


 少し、珍しいかもしれない。
 普段野薔薇ちゃん達と騒いでいる時は、何くだらねぇ事やってんだ、とか言って突っ込んではこないし、五条先生が絡むと碌な事にならないからって避ける事さえあるのに。(ただし、いずれの場合も結局は巻き込まれている事が多いけれど)

 わたしとしては、純粋にそれが気になって聞いたつもりだったけど、恵くんは何故かそっぽを向いてしまった。
 そのまま様子を伺っていると、小さく口を開く。


「俺が近付いてきてるの全然気が付いて無かっただろ」
「……か、」
「……か?」


(ーー可愛い)

 口にはしなかったけれど、はっきりとそう感じてしまった。なぜなら可愛いから。

 恋人になって約半年。未だ喧嘩らしきものをした事がなく、出来ればしないままでやっていきたいとは思っているものの。
 こういうお小言なら、むしろ嬉しいくらいだ。勿論、限度というものがあるけれど。

 これらの思考は声には出さず、全て脳内で繰り広げているつもりだったけど、恵くんには伝わってしまったらしい。軽く頭をはたかれてしまった。


「何にも言ってないのに」
「そのニヤケ顔見れば分かる」
「流石は恵くん」
「いいから、はぐらかしてないで教えろ」


 反射で感動していたからはぐらかしているつもりは全くなかったけれど、恵くんはご不満らしい。そういう所も可愛いんだけどな、と思うものの、これ以上考えると本当に怒られそうなので止めておく。


「乙骨先輩に、恵くんとの事話してたの」
「?俺とって……どの話だ?」
「付き合ってるって事」
「そこかよ……って、そうだよな、あの人暫く居なかったし……」


 恵くんの反応は予想通り。正直、わたしも乙骨先輩とその話をしていて噛み合わなかった事で初めて、まだ伝えてなかった事を思い出したくらいだし。


「ふふ、安心した?」
「……名前は、どうなんだ?」
「嫉妬?しないよ、だって恵くんはわたしのだし、わたしは恵くんのだから」
「…………そういうこと、絶対人前で言うなよ」


 恵くんの問いに迷わず答えると、たっぷりと間を使いながらそんなことを言われた。どういうつもりかと考えたのは一瞬のことで。
 彼の赤い顔を見れば、それは一目瞭然だった。


「恥ずかしいから?」
「それもあるが……手、出したくなるだろ」
「えっ!」


 思わず素っ頓狂な声が出た。カッと頬が熱くなるのがわかる。そこで照れるのかよ、という恵くんのツッコミが聞こえた。

 そんな事を言われても、付き合ってから半年、喧嘩もしていないけれど、『そういうこと』もまだ全然していなくて。何せわたしは暑いと人目を気にせず、スカートの中を下敷きで仰ぐような女だ。恵くんがとても無欲なのか、わたしに色気がないのか、図りかねていた。
 流石にこれは誰にも相談できないでいたのだけど、そのどちらも不正解らしい。


「恵くん、今までそんな気配無かったのに」
「そんな暇無かっただけだ。ほら、行くぞ」
「えっえっ、今の冗談……」
「じゃねぇ」


 強引、という程では無いけれど、わたしの手のひらを捕らえた力は、毛ほども離す気は無さそうだった。何より、いつもはクールな瞳が、わたしの知っているのとは別の熱を持って揺らめき、目が離せない。
 特攻して自爆するのはわたしの悪い癖なのだけど、恵くんの新たな一面を見られただけで、まあいっかなんて思えてしまう。


「お前が嫌がるような事は絶対にしないから、安心してろ」
「!」


 強引、なんて一瞬でも考えた己をぶっ飛ばしたくなるくらい、やっぱり恵くんは優しかった。
 期待と、少しの不安と、他にも色んな感情が混ざりあって、それでも恵くんへの気持ちがいちばん大きくて。

 それをほんの少しでも伝える為、繋いだ手はそのままに、少し先を歩く恵くんの腕へと飛び付いた。



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