大人への第一歩 「下着買いに行こうよ!」 そう言ってみたら風丸が目の前で盛大にお茶を吹き出した。 「うわ大丈夫か風丸!」 「緑川…。それ大声で言うことじゃないぞ…」 半ば呆れながらも私の話をちゃんと聞いてくれるのが風丸だってことを私はよく知っている。そうでなきゃ親友なんてやってられない。 「で、下着って。一体どういうことだ?」 気を取り直して、というように風丸が尋ねる。 実は私、ブラジャーという類のものを1つも持っていないのである。小学生の頃少しは憧れていたものの、お日さま園のみんながいる手前、手を伸ばせず。でも中学生になったんだし!と思った。 そして、理由がもう1つある。ヒロトという彼氏の存在だ。周りのみんながどんどん大人っぽくなっていくのに、私だけ置いてけぼり。これじゃダメだ。大人になりたい。ヒロトに釣り合う女性になりたい。 以上2つが私がブラジャーを買おうと思った理由だ。で、先輩で親友の風丸に相談した、という訳である。 理由を話すと風丸は承知してくれ、早速今日の放課後に買いに行くことになった。 風丸に連れてきてもらったお店は、ショッピングセンターの中に入っていて、いつも私が買い物に来たときに少しだけ覗いていくお店だった。 風丸曰く、 「こういう店だと、私たちの財布にも優しいんだ」 らしい。 風丸が店員さんに事情を話してくれて、私は大きな鏡のついた試着室へ通された。ブレザーを脱ぐように指示されて、スカートとワイシャツだけの姿になった私の胸と胸の下にメジャーが当てがわれる。これが大人への一歩なんだと思うと、少し緊張した。 「お、おかえり。サイズどうだった?」 「Aの70って言われた」 緊張でヘトヘトになった私を笑顔で待っていてくれた風丸が女神のように見えた。なんでだろ。 「緑川は…そうだな、こういう感じのが似合うと思う」 風丸が選んでくれたのは、白地にブルーのレースがあしらわれているものと、クリーム色に淡い紫の水玉がついたもの。 「じゃあこの2つ、買おうかな」 「あ、私のも選んでくれ」 えーっと、と私が選んだのはオレンジと黄色のストライプ。風丸の彼氏の円堂のバンダナの色をちゃっかり入れてみた。 「私のサイズは…っと、あった」 そう言いながら風丸が手に取ったのはC70と書かれていたもの。風丸ってそんなにあったのか…。とか思いながらレジへ向かった。 「風丸、今日はありがとう!」 「私こそ、突然選ばせてごめんな」 風丸と2人、憧れのお店の袋をぶら下げて。大人になるって恥ずかしいけど、満ち足りた気持ちになるんだ、と思った。 |