絡めた指が愛になる




「ほら」

手の伸ばされた方向を順にたどってみると、真っ赤な顔をした晴矢がいた。

「私にどうしろと」
「ばっ…!感付けこの鈍感!」
「嘘に決まってるじゃないか」

その手を軽く握る。それならいい、と小さく呟いた晴矢は私の手を握り返してくれた。
初めて。恋人、という関係になってから初めて手を繋いだ。幸い周りには誰もいないから人目を気にすることもない。だけど気になるのはこの重々しい雰囲気。

「おい晴矢、何か話せ」
「俺に振るな」
「君しかいないんだが」
「…」

再び押し黙ってしまう。何事かと思って、少し遠目から顔を覗き込んでみた。
その様子を一言で表すなら、ゆでダコ。さっきより更に、耳まで真っ赤にして、必死そうな顔で。
ふと、奴がこちらを見た。

「お、ま、え…」
「真っ赤だな、晴矢」
「み、見てんじゃねぇ!」

繋いだ手のひらから伝わる熱。焦っているのがわかる汗。普通なら気持ち悪いとか思ってしまうかもしれないけれど、晴矢のならいいとか思ってしまう。

「緊張、してんだよ悪いか」

吐き捨てるようにして言われたそのセリフは妙に私にずん、と響く。そしていたずらしたくなってきて、一度手を離し、指と指を絡めてみる。晴矢が一度こっちを見てきたときには、その顔を見ないでやった。どうせゆでダコの顔がさらにゆでダコになっているのだろうから。

だけど、その私の行動が間違っていたらしい。私の手はゆっくりと持ち上げられていて、いつのまにか奴の口元まで運ばれていたのだから。

「なっ…!」
「こっちの方がしやすくていいな、キス」

指先の付け根にそっと唇が触れる。顔が熱い。そして更に熱い、熱い。これは何の温度かわからない。晴矢の唇か、私の手か。

「離せ!」
「えー…。じゃあ今回はこのくらいにしておいてやるよ」

さっきの恥ずかしがって顔を真っ赤にしていた晴矢はどこへやら。急にいつもの調子に戻って、優位に立っている。
そのまま、指を絡めて道を歩く。なんだか私まで緊張してきた。私が黙ってしまったことで、緊張が戻ったらしい。忙しい奴だ、となんとか回っている思考回路の中で思った。

「黙るな晴矢」
「この状態で黙るなって方が無理だ」
「じゃあ手、離すぞ」
「それは嫌だ」

そして更に握り込まれる。再び頬に集まる熱。奴の顔も同様らしい。
知らなかった。初めて手を繋ぐだけでこんなになるとは。初なものだ、私も、晴矢も。いつもこんなにそばにいて、軽口を叩き合っているというのに。

熱い、熱い。私の身体が熱いのか、晴矢の身体が熱いのか。
それとも、お互いに絡め合うこの指が熱いのか。

だけどもそれも、愛ゆえに。






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -