※緑川が女の子
※みんな高校生

















薬指にくちづけを




高校1年生になって迎える誕生日は、女の子にとってどこか特別なんだと思う。だってほら、俺の彼女も朝からずっとそわそわしっぱなしで、夜に園の中でやる誕生会をものすごく楽しみにしてるくらいなんだから。



「おめでとうリュウ!」
「おめでとー!」

女の子たちに囲まれて照れ笑いしている緑川は、とてもかわいらしい。去年まで中学生だったという名残がまだあって、程よい幼さが彼女の魅力。

「しっかしまぁ、あのリュウがねー」
「16歳、か」

それなりにパーティーを楽しんで、ジュースを飲んでいた俺の隣にやってきたのは、晴矢と風介。いつのまにか俺を囲っている。

「信じられねーもん。俺らよりガキなリュウがもう結婚できるんだぜ?」
「それは仕方ない。女性と男性では基準が違う」
「で、君らは何が言いたいの?」

そうしたらタイミングよく同時に俺の方を向く。そのコンビネーションはどこまで鍛え上げたんだといつだって聞きたい。

「しねぇの?プロポーズ」

隣でうんうん、と頷く風介。
いや早すぎる。確かに俺達は付き合ってるし、やるべきところまでちゃんとやっている。だけど、早い。俺は男だから、18歳になるまで結婚はできない。従って、来年。

しないのかしないのか、と2人に問い詰められ、とうとうその場を逃げ出した。そりゃあ緑川とやるああいうことに関しては今の彼らのように遠慮の欠片もないけれど、真面目な話はちゃんとしたいんだ、ちゃんと。


部屋に戻って、ベッドにもたれかかる。渡せなかったプレゼントを片手で持ち上げてみる。それは淡いピンク色に包まれていて、緑川の雰囲気によく合っている。
俺だって、考えていない訳じゃない。ただ、早すぎるだけ。大人になってからだって遅くはないはず。
とりあえず大学を出て父さんの企業を継いで。緑川を養えるだけの貯蓄ができたら、結婚したい。それまで緑川と付き合っていられる自信だってある。
でも、頭から離れない晴矢の言葉。

『しねぇの?プロポーズ』

本心を言えば、したくない訳じゃない。むしろ結婚できるなら今すぐしたい。毎朝、緑川の作った味噌汁を拝めたらどんなに幸せだろうか。

「…ヒロト?」

緑川の声がして、キィ、と控え目にドアが開く。緑川はちゃんとノックはしてくれる。今回は俺が聞いてなかったのだろう。

「今、いい?」
「うん」

俺に確認を取ると、中に入ってきてドアを閉め、近くに座る。
緑の髪の毛は下ろされていて、ゆるくウェーブがかかっている。服はさっきのままで、どうやら誕生会の場から直接来たらしい。

「どうしたの急に」
「晴矢と風介が、行って来いって」

あの2人、後でどうにかしよう。

「私、さっきのヒロトと晴矢と風介の話、聞いちゃって」
「…え?」
「それで、ちょっと不安になって」

ヤバい。この話し方はヤバい。

「ヒロトと、ずっと、いたいのはっ、私だけかなって」

緑川の黒い瞳から落ちた涙。
俺、最低かもしれない。晴矢と風介絡みとはいえ女の子を、それも好きな女の子を泣かせてしまうなんて。しかも誕生日に。

「…違うよ」

そっと、その涙を掬いとる。

「俺だって一緒にいたい。でも、まだ早いかなって思っただけ」
「ヒロ、ト」
「誕生日おめでとう、リュウ」

やっと渡せたプレゼント。それを手に取った緑川は「あけてもいい?」と涙声で許可を求める。それに同意すると、ゆっくりと包みを開いていく。

「うわぁ…」

それを指に絡めて、光に透かすようにして高く上げた。

俺があげたもの。2つの星が並んだネックレス。もう高校生なんだし、アクセサリーがいいかなと思った結果である。そして、最後の最後まで指輪と悩んだことに関しては黙っておく。

緑川の手からそれを取り、首につけてやると、彼女は柔らかく微笑んだ。

「やっと笑った」
「え、嘘」
「本当だよ。俺の部屋に来てから初めて笑ったよ」

ごめん、と申し訳なさそうに言う頭を撫でてやると、その顔はとても嬉しそう。

「で、さっきの話なんだけど」

そっと緑川の左手を取る。

「いつか必ず言うから、それまでここ、空けといてね」

そのまま薬指にキスを落とすと、緑川の顔が真っ赤に染まっていった。






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