触れた指先にうずく熱




とろり、とクリーム色の液体が重力にしたがってホットプレートの上に落ちていく。そしてそれは、綺麗な円を描いた。

「ヒロトすごい!俺こんなにうまくできないよ!」
「こんなの、すごくないって」

はは、と笑いながら緑川の落とした生地をみると、見事にその形はいびつだった。

こうやって、ホットプレートの上でホットケーキを焼くのは案外楽しい。皆で楽しみながら、皆の顔を見ながら料理ができる。俺が小さい頃も、姉さんがよくやってくれたものだった。
緑川にも教えてあげたくて2人でホットプレートを囲んでやっているのだけれども、彼はこういうことをやったことがなかったらしく、とても楽しそう。それはそれは、こっちまで楽しくなってくるほど。


いくつか落としたうちの1つの表面に、ぷつぷつと小さな穴があく。それをそっとひっくり返すと、こんがりとしたきつね色の焦げ目が顔を出した。

「うわぁ…」

その様子を見ていた緑川の目は、キラキラと輝いている。生まれて初めて何かを見たような、そんな目。

「俺、パッケージみたいなホットケーキ初めて見た」

緑川の指差した先には、ホットケーキミックスのパッケージに写っている、美味しそうなホットケーキ。これと同じようなものを作ろうと思うと、かなり難しかったりする。

「じゃあ緑川、これをひっくり返してみて」

はい、とフライ返しを手渡すと、押し返される。

「ヒロトがやってるの、見ていたい」

だってうまくできないかもしれないし…とかぶつぶつ言いながら押し返してくるものだから、余計やらせたくなる。こういうの何て言うんだろ、どこかで聞いたことある気がする。

「やってみようよ緑川。案ずるより産むが易し、って言うじゃないか」

そこまで言うと渋々了承した緑川は、ごくり、と俺に聞こえるくらい大きな音を立てて唾を飲み込み、フライ返しを生地の端に当てた。

くるり。

そんな感じであっさりと裏返ったホットケーキは、先程俺がひっくり返したのと同じくらい綺麗なきつね色をしていた。

「ヒロト!できたよ、できた!」

その喜び方は大袈裟だとは思うけれど、彼にとっては大きな一歩だったらしい。とても嬉しそうな緑川はかなりかわいかった。

そして次の生地もひっくり返そうと思った、その時。

「…っ!」

指先がホットプレートに触れてしまった。ほんの一瞬だったから大丈夫だとは思うけれど、指先はじんじんと痛む。

そしてまた、次の瞬間。

緑川が俺の手を掴み、ものすごい勢いで引っ張っていく。そして着いたのはキッチンのシンク。勢いよく水を出したと思ったら、俺の手を握ったまま、水に当てた。

「火傷したら、冷やさないと」

これはかなり慌ててるな、と口調から判断。そして状況とは反対に、かなり冷静な俺。そして気づいた。

「ねぇ緑川」
「な、何?」
「今俺達、手、繋いでるよね?」

緑川は全く気付いていなかったらしく、隣にある顔がみるみる赤くなっていく。
耳の先まで、真っ赤。

「緑川から握ってくれたの、久しぶりだね」
「仕方ないだろ!状況が状況なんだから!」

そんな顔で言われても、説得力などありはしない。
もうかなり恥ずかしいらしく、俺の手を握る手、指先に至ってまで、俺の手にダイレクトに熱が伝わってくる。表面には水をかけられているのに、それだけはわかる。

「ありがとう緑川、もう放していいよ」
「え、いいの?」

俺がこんなことを言い出すとは思っていなかったらしく、びっくりしたような声を上げる。

「ホットケーキ、焦げちゃうだろ?」

そうだった、と言って、俺の手を放してホットプレートへと戻る。

「ヒロトはもうちょっと冷やしてなよ!」

フライ返し片手に叫ぶ緑川は、やっぱりかわいかった。


そして緑川の手によって指に絆創膏を貼ったまま、できあがったホットケーキを食べた。食べている間も緑川の顔が赤かったのは、絆創膏を貼っている間も俺が同じことを言ったせいだと思う。自分の指が俺の指に触れた時なんか、今よりも真っ赤になっていた。

そんな感じで作ったホットケーキは、なんとなくだけど、いつもより甘い感じがした。






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