小さな視線に応えよう 試合前、というのはいつだって緊張するもの。たとえ小さな大会であったとしても、試合は試合。そして、大事な人が見に来るならなおさら。まぁ大事な人と言っても保育園児だけれども。 『こんど、ひろとのしあいみにいく!』 いつものように週に一度のリュウジの迎えの帰り道、その言葉は小さな口から元気よく飛び出した。 『にちようびでしょ!しあい!』 『ちょっと待ってリュウジ、どうして知ってるの?』 『みこねーちゃんにきいた!』 みこ、というのは姉さんのこと。ひとみこ、とまだあまり上手く発音できないらしく、そう呼んでいる。 そしてがっくり項垂れた俺。姉さん、余計なことは言わなくてもいいんだよ。 そして今に至るのである。 試合前のストレッチは入念に。何か怪我でもしたら今後に差し支える。 「ひろとー!」 ふくらはぎのあたりを伸ばしているときに聞こえた明るい声。振り向いてみれば案の定リュウジ。とことこと走って来たかと思ったら、ぎゅっと抱きついて、 「がんばってね!」 と一言。 こう言われては頑張らないわけにいかない。かなり現金な俺だった。「犯罪だ…」とか言ってる晴矢の声が聞こえたけど気にしない。かわいいものはかわいい。何だって。 そして、試合開始。 ドリブルで相手を抜いていくたびにリュウジが手を叩く。ボールをカットするたびにリュウジがきゃっきゃっと喜ぶ。そして、流星ブレードを決めたとき、リュウジは歓声をあげて騒いだ。 もちろん俺が見たり聞いたりしたわけではない。試合が終わった後、全て姉さんから聞いたことだった。 今は帰り道。姉さんにおぶわれてすやすやと寝息を立てているリュウジは、きっと疲れてしまったのだろう。 「『みこねーちゃん!いれた!今ひろといれたよ!』 『やっぱりひろとははやいね!』 って、凄く嬉しそうだった。よっぽど好きなのね、あなたが」 さすがにセリフまで聞くとなんだか照れる。騒ぐリュウジが今目の前に見えるようだ。 そんなことを知るはずないリュウジは、やっぱりすやすやと眠りについている。 なぁリュウジ、俺、お前に見せられるようなプレーができたのかな。君は、今一体どんな夢を見ているのかな。自惚れてもいいのなら、それが俺の夢でありますように。一緒にサッカーをしていればいいな。 「ひろと…」 寝言で俺の名を呼んだかと思ったらまた眠ってしまう。そんな様子が微笑ましかった。 ------------------------ 5000フリリク企画参加、ありがとうございました! |