最愛




『夜になったら、抜け出そう』

子供のいる家がそうであるように、お日さま園にだって当然門限と規則がある。俺とヒロトが目論んでいるのは、夜遅くになってから星を見に行くこと。普段だったらそんなこと考えもしないヒロトからの提案。瞳子さんに叱られることか夜の冒険。好奇心旺盛な俺としては、当然のように後者が勝った。

そしてその夜。ヒロトと決めた場所に行くため、寝たフリをやめ、むくりと布団から起き上がった。

「リュウジ…?どこ行くんだよ…?」

びっくりしておそるおそる後ろを振り返ってみると、大夢が目を擦りながらこちらを見ていた。

「えっと、トイレだよ!トイレ!」
「…あっそ」

そう言ってまた布団の中に潜り込んでいく。自分の適応力を褒め称えたいと今回は本気で思った。
足音を立てないように、そっと玄関へ向かう。靴を履いて外へ出ると、一気にダッシュした。とにかく離れるために。


「あっ、緑川ー!」

下ろしていた髪を結い直しながら走っていたせいでちょっと遅くなった。すっかり暗闇に慣れた目で声のする方向を見ると、ヒロトが手を振っていた。

「ごめん、遅くなった」
「いいよ、抜け出してって言ったのはこっちだし」

ヒロトが待ち合わせの場所に選んだのは、園に近い小さな丘。上を見上げると、満天の星空が散っている。

「ねぇ、覚えてるかい?10年前の今日のこと」
「当たり前だろ」

10年前の今日。それは俺がここに来た日。ヒロトと出会った日。

「お前はずっと泣いてたね」
「仕方ないだろ、親戚の家から急にここに移されたんだから」
「でもそうじゃなきゃ俺とお前は出会わなかった」

ふと、手に何か触れた。ヒロトが俺の手を握っていた。

「馬鹿」

あとの言葉は何も言わず、そっとその手を握り返した。あまり悪いことは言いたくない。だって今日は君との記念日だから。

「きっと運命…なんて言ったら怒る?」
「いや怒らないけど。なんかベタじゃないか?」
「夜ってすごいね。クサい台詞もあっさり言える」
「お前は昼も夜も関係ないだろ」

それもそうか、とクスリと笑う。こうやって2人の時間を過ごしたのはどれくらい振りだろうか。

「この日を緑川と迎えられてよかったよ」
「来年も、再来年も、また来ようぜ」

偶然かもしれない。でも巡り会えた愛しい愛しい最愛の人。
これからも、ずっと一緒にいられますように。

ほんのわずかに、手を握る力を強くした。

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アンケ1位の基緑
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