疑念 束縛、というのは嬉しい人もいるだろう。それだけ相手に想われているのだから。だけど、俺を束縛してる奴が好きなのか好きじゃないのかわからなかったりすると、かなり気が滅入る。 「緑川、一緒に出かけないか?」 突然話しかけられて、振り返って相手を確認してみれば、水色のポニーテールをふわりと揺らしている奴だった。 「風丸…!」 突然のことだったからちょっと機嫌が悪かったけど、彼だったなら話は別。 言葉にするならば、犬がしっぽをブンブンと振っているだろう。それくらい嬉しかった。 だけど、脳裏をよぎるのは、黒歴史上のかつての上司の存在。そんなのもう関係ないと頭ではわかっているけれど、どうも身体がまだ反応しているようで。 「あー…」 「無理しなくてもいいんだぞ?」 「いや、無理してはないんだけど…」 最近風丸のことが気になっているのは自分でもわかっている。けれども、それに反対というか何というか、要は納得できない自分だっているのである。 「やっぱり、ヒロトのことか?」 「…うん」 俺は今ヒロトと付き合ってる。風丸はそのことを知っていて、それでもこうして話しかけてくれているからもしかして、と多少自惚れている自分がいる。 そして決心する。 「行こうぜ、風丸!」 ぱあっと風丸の顔が明るくなった気がした。なんだか嬉しそうな顔つき。こっちまで嬉しくなってくる。 そう、風丸は友達。いい友達。そう割り切ってしまえば大丈夫な気がした。けど、 「だーめ。緑川は俺と一緒にいるの」 後ろから急に抱きつかれた。この感触、この香り。そしてこのサッカーをいくらやっていても焼けることのない肌の色。 「ヒロト…」 くそ、なんというタイミングだ。まさに神出鬼没。 ぎゅっ、と後ろから抱きかかえられている状態で、風丸を軽く睨んでいる。ついでに言わせてもらうと、腕の力をもう少し緩めてくれると嬉しいんだが。 「緑川は俺の。だから近づかないで」 そんな子どもみたいな要求するなとか思ったが、気がついた頃にはそこにはもう風丸の姿はなかった。 そして耳元で一言囁かれる。 「今も昔も、ね」 背中がぞくり、とした。 以前までのことをヒロトも引きずっていた。引きずってはいるけれども、引きずり方が違う。やはり上司だからだろうか。 ヒロトの前向きな引きずり方と俺の後ろ向きな引きずり方。黒歴史だし。この対照的な違いが何とも言えない。 レーゼとしての俺はヒロトが好きで、リュウジとしての俺は風丸が好き。多分。 結局俺が好きなのはどっちなんだろう? ------------------------- あまりシリアスっぽくなりませんでした。すみません… 企画参加ありがとうございました! |