ごめんね。 追いつきたい、と願うようになった。 追い越したい、と望むようになった。 そう思い始めたら止まらない。身体は勝手に動き出してその目的に向かい始めるし、頭もそのことしか考えなくなる。落ち着かなきゃいけないのはわかってる。あの時と同じことをもう一度味わうなんて嫌だ。だけどもう、止まらない。 「もう止めたら?緑川」 ごろり、と寝転がった地面が硬い。その声に反応して目を開けてみれば、夜空に映える真っ赤な髪が目に入った。 「なんだよ、ヒロト」 ヒロトは心配そうな顔をして俺を見下ろしている。わかってる。きっと今まで俺がしていたことだ。 「練習。無理してやっても伸びないよ?」 案の定、ヒロトはため息をついた。そしたら、俺も。それを見たヒロトは、少しだけ顔をしかめた。 「無理はしてない。ただ…」 「ただ?」 「もっと上手くなりたいだけだ」 すると、ヒロトはしゃがみこんで俺の顔を覗き込んだ、と思ったら。 「いでっ」 いきなりデコピンされた。べしっ、という音が無情にもその場に響く。 「何するんだよいきなり!」 「緑川が何言ってもやめないからつい」 ついじゃない、ついじゃ。 だけどその笑顔が妙に寂しげで、いたたまれなくなった俺は、素直にその言葉に従っておいた。聞き分けはいい方なんだと自分で思う。 「でもさ、どうして俺を止めたいのさ?」 むくり、と起き上がってヒロトの顔をじっと見つめてみる。あれ、なんか様子がおかしい。 そして、えー、とかあー、とか漏らした後、ゆっくり話し始めた。 「もう一緒にできないとか、嫌だから、さ」 俺ができなくて悔しがってたとき、ヒロトも同じだったということだろうか。 チームから外されたのが悔しくて。それを言われてから暫くは泣いたりもした。 でもヒロトも同じだったのか? 俺が抜けることになって、悔しかったのだろうか。多分泣いたり、なんてことはないだろうけど、少し思い上がってもいいのなら。 「ありがと、ヒロト」 くしゃり、と髪の毛の乱れる音と手のひらの柔らかい感触。 「頑張りすぎなんだよ、リュウジは」 こんなに心配されて、どうしたんだ俺。 目の奥が少しジンジンしてきたけど、今は少しくらい泣いたっていいだろう。こうやってそばにいてくれて、心配してくれるだけで幸せなんだから。だけど今は。 俺の隣で俺の頭を撫で続ける恋人の肩に頭を預けて、涙を流した。 ごめんね、と謝りながら、ありがとう、と感謝を込めて。 ------------------------ 企画参加ありがとうございました! |