※色々捏造あり
※ぬるいけど一応R15













変わらぬもの




「ん、あぁっ…」

胸に2つ並ぶその小さな突起に唇を寄せ、最終段階に入ろうと、サッカーで鍛えられた細い脚を持ち上げる。
あまり広いとは言えない部屋に声が響く。俺たちにしては珍しく、昼間から行為を行っているため、カーテンを閉めて極力暗くしたけれど、その隙間からは少しだけ光が漏れる。

「うぁっ、ふ、」
「緑川、力抜いて」
「うぇっ、く、あ、ひぁあっ!」

その声に少しだけ、泣き声が混じる。いつものことだからあまり気にはしなかった。行為の最中に泣くなんて話、よく聞くから。
だけど、その顔を見た瞬間。いつもは暗くて見えないその顔は、それはもう涙でぐしゃぐしゃになるまでになっていた。

「どうしたの?痛かった?」
「ひっ、違っ、う…」

その涙に唇を寄せれば、それは温かくてしょっぱかった。

そして泣き続ける緑川。今までは夜に行っていたから、声は聞こえても顔は見えなかった。でも今は、外が明るいせいではっきりと見えている。
寄せられた形のいい眉も、上気する頬も、泣きすぎて真っ赤になった目も、全部全部。
そして、ぎゅっと結ばれた口元が開くことはない。

「言わないとわからないじゃないか」

ね?とできるだけ優しく頭を撫でてやる。いつものポニーテールを解いたその頭は、驚くくらい俺の手に馴染んだ。

「ヒロトが、っく、どっか行っちゃうの、やだ」
「俺はここにいるけど?」
「ちが、う」

ごしごしと目をこする。でも嗚咽は止まらないままだから、なんとか落ち着かせようと、その身体をシーツでくるみ、抱きしめる。ずしり、と胸に重い感触。背中をさすってやると、少し落ち着いたらしく、また口を開いた。

「『ヒロト』がいなくなるの、嫌だ…!」

まるで叫ぶように言い切ったあと、再び泣き始めた。とにかく、その背中をさすり続ける。

「またっ、どっか行っちゃう気がして、嫌だっ」
「…緑川、あの日のこと思い出して泣いてるの?」

思い当たる節があって尋ねてみると、腕の中で首が縦に振られた。



あの日。
俺たちが「ヒロト」と「リュウジ」でなくなる日のことだった。
その日の夜も、今みたいに肌を重ねた。「ヒロト」であるうちに。「リュウジ」であるうちに。こうやって、愛したことを残したかった。

次の日からは、「グラン」と「レーゼ」として生きなくてはならないから。
もう、元には戻れないから。

『うぁっ、ん、ひぁっ…ヒロトッ!ヒロ、トッ』

もう呼べないその名前を叫ぶようにして呼ぶ緑川の声は、今も耳に残ってる。

それからは、しばらく。
緑川の元気な声も聞けなくなって、俺を「グラン様」と呼び、敬語を使い、まるで別人のように話す「レーゼ」がそこにいた。

でも、今は違う。

「なぁリュウジ。今お前のそばにいるのは誰?」

耳元で、そっと囁いてやる。

「ヒロ、ト」
「お前を抱きしめてるのは、誰?」
「…ヒロト」

うん、と頷きながら力を込めて抱きしめる。緑川がもっと近い。

「前までは違うかもしれない。でも、今お前のそばにいるのは俺だよ?別れのことを思い出すんじゃなくて、また一緒にいられることを喜びたいけど…ダメかな?」

ふるふる、と首が横に振れる。そして小さな声で呟いた。

「ねぇヒロト」
「なんだい?」
「このまま、ぎゅーってしててもらってもいい?」

俺の胸から顔を離して語りかける。返事の代わりに、もう一度その頭を抱きしめた。



ここにいるのは「ヒロト」と「リュウジ」。それは変わらないから。
それをもう一度味わうために、俺たちはしばらくそのまま、抱き合っていた。





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