sweet,so sweet




一口分だけフォークに刺さったショートケーキを頬張った。
ふわふわのスポンジに真っ赤な甘いイチゴと真っ白な生クリームが挟んである。

別に、誰かの誕生日ってわけではない。ただ単に俺が食べたくなって買ってきただけ。地球にはこんな言葉がある、善は急げ、ってやつだ。
ちゃんとしたケーキの専門店じゃなくてコンビニで買ってきた2つ入りのケーキだったけど、なかなかうまい。イチゴだって美味しいし、クリームも甘い。俺にとってはかなり満足の味。

だけど、1つ問題が。

残り1つのケーキ、その存在。今もそいつは頭にイチゴを乗せて、パッケージの中で大人しくしている。
とりあえず目の前に置いて、腕組みをして考える。誰かに食べてもらいたいけど、もったいない気もする。
そんな感じでしばらく考えて、結局翌日自分で食べることにした。自分で買ったんだから、やっぱり自分で食べたい。
ケーキを冷蔵庫にしまおうと、ケーキの入ったパッケージを持ち上げた、時だった。

「あれ、緑川?」

…見つかった。しかも一番やっかいな奴に。

「ど、どうしたのヒロト?」

そのケーキのイチゴと同じくらい真っ赤な髪をしたヒロトは、ゆっくりと俺に近づいてくる。

「それ、ケーキ?」
「…あげないからな」

いつの間にか俺の手元を覗き込んでいた。いくら恋人と言えども、譲る気は全く無かった。もう1人で食べるって決めたし、決めたら決めたで明日が楽しみだし。

「ケチ」
「ケチで結構」

そうしたら、ケーキを覗き込んでいたはずのヒロトの顔はいつの間にか俺の顔を見つめていた。それはもう、まじまじと。
正直、かなりキツい。
だって、好きな人だから。好きな人に見つめられて、恥ずかしくならない奴がいるだろうか、いや、ない。

「…やっぱり、ケーキはやめとくよ」

俺の顔を見つめたまま断った。そしてじりじりと近づいてくる。それに応じるかのように後退する俺。なんだこの状況。

「さっきまでさ、そのケーキ食べるつもりだったんだけど、今はそれより食べたいものできちゃってさ」
「…ふーん」
「きっと甘いよ、それも」

何か企んでるような顔だこれは。だが、ケーキを食べられることはないと知った俺は油断していて。油断してはいけない状況だったのにも関わらず、油断していて。

「食べればいいじゃないか、それ」

こう言ったのがいけなかった。

「それじゃ、いただきます」

急に目の前がヒロトでいっぱいになったと思ったら、唇の端っこ辺りに生暖かい感触。ヒロトの顔が離れて、指先で俺のその箇所を拭う。

「ごちそうさま、ついてたよ、クリーム」

とんとん、と俺の唇の端をつつくものだから、何をされたかようやく理解した俺は、ケーキを残したまま一目散に部屋を飛び出してしまった。

「だったら普通に言えばいいだろ!」

そんなことを叫びながら。

そしてケーキは、その後部屋に来た晴矢によって食べられてしまっていて、俺の落胆っぷりが凄まじかったことは、言うまでもない。





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