好きだけどそれよりも




バタン、とドアを閉める音が聞こえて今の今まで取り組んでいた問題集とノートを机の棚にしまう。かけていた眼鏡も外して、部屋の外に出た。



ある一室に着き、目の前のドアに向かってノック。やや間があってから、「どうぞ」と小さな声が聞こえてきた。
一応、「お邪魔します」と言ってから入室。俺の真っ正面には、濡れた頭の上にバスタオルを被り、パジャマ姿で雑誌を読んでいる緑川の姿があった。

「お風呂、さっき出たの?」
「うん。誰もいなかったし」

雑誌を読みながら俺の質問に答えている。読んでいるのはやっぱりサッカーの雑誌。こうやって、彼は彼なりに研究を積み重ねているのだろう。

そして、俺の本来の目的に移る。床に座って熱心に雑誌を読む緑川から、まずそれを奪い取る。

「あ!何するんだよ!」
「それより先に、やることがあるの」

唇を尖らせて俺をにらんでいるが、ちっとも怖くはない。むしろ可愛い。

俺は緑川のベッドに少し深めに腰掛け、足を少し広めに開いた。そしてその間を叩く。
本当なら、膝の上に乗せてやりたいところだが、身長や体格があまり変わらないためどうしてもバランスが悪くなる。そこは素直に悔しい。

緑川は大人しく叩いた場所に座る。ベッドのスプリングが少し音を立てて、緑川の身体をベッドに馴染ませた。

「毎日毎日、飽きないよな」
「好きなことだからね」

緑川の頭にかかっていたタオルを取ると、長い髪の毛が姿を見せた。濡れたままなのに、ゆるゆるとウェーブがかかっている。

「そんなことしたって、いいことないぞ?」
「緑川の綺麗な髪が見られればそれでいい」
「…ふーん」

その髪をタオルで挟んで軽く叩いて水分を取る。それを全体に施したあと、洗い流さないトリートメントを適量手に取り、髪につける。ゆっくりと、浸透するように。

「女みたいで、嫌なんだけど」
「見た目は女の子みたいじゃないか」
「おい」

少し怒気の入った声が聞こえたので、これ以上言うのはやめた。最後に、ドライヤーで乾かす。するすると指の間を通る髪の毛の感触が心地よい。そして8割程乾いた辺りで冷風をかけるのも忘れない。

そして、終了。

今日の業務を終え、お楽しみに入ろうと後ろから緑川を抱きしめる。すると、驚いたように肩が跳ね上がった。

「あれ?恥ずかしいの、緑川?」

抱きしめた彼の身体は熱かった。それはそれは、ゆでダコのように。ちらりと耳元を見てみれば、案の定真っ赤になっていた。

「〜っ、だって、いくらやられても慣れないんだよ!あれ!」

あれ、とは先程の行動であろう。

「もう俺髪切ろうかな…」
「なんで?」
「毎日されちゃ、身が持たない」

もちろん、髪は切らせない。このふわふわとした緑色の髪は好き。いつものポニーテールも、こうやって下ろしているのも。だけど、それ以上に、

「好きだよ、緑川」

ちゅ、と聞こえるようにわざとリップ音を立てて後頭部にキスしてやれば、ぷしゅー、とさらに真っ赤になった緑川がしぼんでいった。





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