恒例行事 月に一度、第3日曜日が俺は嫌いである。 「こんにちはー」 園内に響く澄んだ声に、子供たちは全員勢いよく声のする方へダッシュ。そして玄関で待っているのはこの園のOB、と呼ばれるべき人物。 「みんな元気そうでよかった」 その、眼鏡のレンズの向こう側で、翡翠の目を細めて笑うんだ。吉良ヒロト、旧姓基山ヒロト。尊敬はしているけれどもいけ好かな いってこういうことだと思う。でもぶっちゃけ、皆が気にしているのは彼のことだけじゃなくて。 「あれ、狩屋は?」 ヒロトさんの後を追うように現れた、その人。 「こんにちは、リュウジさん!」 「うん、こんにちは」 小さな女の子の可愛らしい挨拶ににこやかに答える。ヒロトさんもだけど、リュウジさんだって皆の憧れの的。 その中性的な顔立ち、男ということを忘れそうな声。現役バリバリの社長秘書。特に園の女の子からの人気が高い。 「リュウジさんって、彼女いないのかな」 とか、 「私、大きくなったらリュウジさんの恋人になりたい!」 とか言ってる女の子を俺は何人も見てきた。彼女はいないけど彼氏はいる、とか内心ツッコミたいことはたくさんあるけれど、要する に、惚れないはずがないだろう、というわけである。 「リュウジさん、リュウジさん」 「んー?」 さっきとは違う女の子がリュウジさんに話しかけているらしい。何を言い出すんだ、と思って耳を傾けてみた。 「今度、遊園地へ連れてって!」 あの社長の目の前でいとも簡単にデートの申込みができるのがすごいと思う。ヤバい、そろそろ皆を戻って来させないと、と思って重い腰を上げたことを後悔した。 「ごめんね。緑川は俺と遊園地に行くんだ」 「ちょ、ヒロト!離れろ!」 しっかりとリュウジさんの肩を抱き、にっこりと微笑む社長。やめろバカップル、とか思いながら目的を果たすことを諦めその場から 撤退した。 俺は毎月第3日曜日が嫌いである。 何故なら、いけ好かない社長が自分の恋人をさり気無く自慢しに来るからだ。 |