単純なココロ



俺は今機嫌が悪い。どれくらい悪いっていうと、地球が爆発させることができるくらい。まぁ実際そんなことできるわけないんだけど。

「…で、この日は大丈夫ですか?」
「そうですね、その日なら…」

取引先の相手との打ち合わせ。いつもなら俺が相手をするはずなのに、相手の指名は何故か緑川。俺は隣で話を聞いてるだけで暇になってしまう。緑川もなんだかんだで楽しそうだし。相手なんかもっと楽しそうだ。ああちくしょう、もやもやする。

「あ、そうだ緑川さん。プライベートな話で悪いんだけど、この日って大丈夫?」

そのセリフを聞いた瞬間、俺の中で何かが爆発した。

「すみません、少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?」

言うだけ言って、緑川の手を引いて立ち上がる。そのまま引っ張って取引先の会社を出た。

「待ってください社長!」
「うるさい」

そのまま車の中に連れ込んで、強引に唇を奪う。

「っ、待って」
「待てない」
「待てって言ってんだろ!ヒロト!」

ゴーン、とその場に鳴り響いた見事な頭突きの音。その音と額の痛みで頭が冷える。何をやっていたんだ、俺は。

「急にどうしたんだよ。お前らしくない」

そう、緑川の言う通りだ。本当に俺らしくない。
あまり知らないような相手と緑川が親しげに話していただけでこんなに嫉妬して。醜いとはまさにこのこと。男は余裕を持たないと、ってどこかの本にも書いてあったじゃないか。

「あの人とは、何でもないから。俺のこと女だと勘違いしてるみたいだし」
「それはわからないよ。男同士の恋愛だってアリなんだから」

そう言って緑川の額にキスを1つ。さっきの頭突きのせいで少々赤くなっている。って、こんなことになったのは俺のせいか。

「でも、俺だって妬くんだからな。相手が女性だったりすると、お前必ず言い寄られるから」
「それは嬉しいな。緑川が妬いてくれるなんて」
「でも、俺がこんなことするのは、」

緑川の顔が近づいてきて、頬に柔らかな感触。

「お前だけだからな」

その可愛さに胸がきゅっとなって、力いっぱい抱きしめてしまう。さっきまでのもやもやが嘘のよう。

「ところで、あの人どうする?」
「ほっといて、お茶でもどうですか?お姫様?」
「はいはい」

半ば呆れながら車に乗り込み、後で電話入れなきゃなー…とかぶつぶつ言っている緑川。もちろんそんなことはさせたくないんだけど、仕方ない。でも俺は後で存分に楽しませてもらうとしよう。

そんなことを思いながら、車を動かした。





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