短くなった俺の髪に添えられた手に、自分の手を重ねた。 「俺の方こそごめん。勝手に勘違いして、こんなことして。本当、馬鹿みたいだ…!」 馬鹿みたいなんじゃない。馬鹿なんだ。こんなに大切にしてくれていたのに、それを信じられなくて。後悔している証拠に、まだ涙が止まらない。 「緑川、顔上げて」 そう言われて、うつむいたままだった顔を上げた。 「はは。こんなに目腫らして」 「うるさい」 もうお互い、笑い合うしかなかった。少し前まで申し訳ない気持ちでいっぱいだったのに、もう幸せだった。 いつの間にか、抱き合って、唇を重ねていた。ヒロトの確かな温もりが、こんなに幸せな証拠だった。 「ねぇヒロト。俺、幸せだ」 「…うん、俺も」 気持ちが通じて、それを確かめ合って。たったそれだけ。それだけの行為。幸せすぎて、溶けてしまいそうだった。 「夢、なのかな。幸せで、幸せで、しょうがないや」 ヒロトは答えの代わりに、もう一度俺の髪を撫でた。 春がやってきた。ヒロトたちも高校を卒業した。短くなった俺の髪も、少しは伸びた。 「泣くかと思ってたのに。緑川も大人になったね」 「俺だって子供じゃないんだからな」 そしてヒロトが旅立つ日。俺も自分が泣くかと思ってたのに、不思議と涙は出て来なかった。 もう一度伸ばすと決めた髪は、今日までの俺たちの思い出を新しく残している。今のこの会話も、入るのだろうか。 「時間だ。そろそろ行かないと」 「うん。それじゃ」 「緑川、ちょっと」 手招きされてヒロトの方へ歩み寄ると、額に柔らかい感触。 「なっ…!」 真っ赤になった俺なんてお構いなしに、ヒロトは澄ました顔で、 「でっかくなって帰ってくるから。それまで待ってて!」 照れ隠しなのはバレバレだと思うけど、その澄まし顔に大きく手を振ってやった。 頬をつねってみた。…夢じゃない。いなくなって寂しいはずなのに、何故か今こんなに満たされてる。それはきっと、この空の下のどこかに必ず、あなたがいるから。 END |