「父さんが永くない。それでヒロトは留学を決めたの」

あやされるように瞳子さんに背中を撫でられながら状況をゆっくり飲み込む。

父さんが永くない。
財閥を継ぐのはヒロト。
継ぐのをなるべく早くするために、ヒロトは留学する。

全ての状況が理解できた瞬間、俺は全てを理解した。俺は、ヒロトに捨てられたわけではない。ヒロトは、ただ待っててほしかっただけだったんだ。

「お、れっ…!何でっ…!」

その場に泣き崩れた。
ヒロトのあたたかな眼差しに、そっとそっと、守られていて。
それにずっと気付かなくて。
言動に後悔した。行動に後悔した。
あんなことを口走って。勝手に思い出を断って。何てザマだ。ヒロトに会わせる顔なんて、もう存在しないじゃないか。

「最後に言ったことは、ごめん。謝るよ。お前にかける言葉が見つからなかったんだ」

聞き覚えのある声にはっとして、顔を上げた。瞳子さんの肩越しに見たその人物は、申し訳なさそうな顔をして、立っていた。

「ヒロトが謝ることじゃない。俺が、悪かったんだ」

あんなことを言って。こんなことをして。
許されるのだろうか。許されていいのだろうか。

気が付いたら、瞳子さんの部屋でヒロトと2人きりになっていた。
しばらく無言の状態だったけれど、ヒロトが口を開く。

「ごめん。こんな風にさせちゃって」

短くなった髪に、手が添えられていた。







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