「ただいまー」

あの後、教室に戻るのが面倒になってそのまま帰ってきた。同じクラスの大夢にメールを入れておいたからまぁ大丈夫だろう。

「あらリュウジ、早かったの…」

奥から現れた瞳子さんが途中で言葉を切った。すっかり変わり果てた俺の髪を見たからだろう。俺のところにつかつかと歩み寄ってきたかと思うと、腕を引っ張って自分の部屋に連れ込んだ。

「一体どうしたの。あなたが髪を切るなんて」

そう言って、温かいココアを渡してくれた。飲むと少し熱かった。

「フラれたんだよ、ヒロトに」

ぶっきらぼうに言い捨てる。暖かい部屋なのに、首筋がスースーするし、毛先が少しくすぐったい。短髪なんて久しぶりだから、どういう風に扱えばいいのか困る。

「ヒロトがあなたを?何かの間違いじゃ」
「間違いなんかじゃない!」

思ったより強く出てしまったが、止まらない。考えていたこと、悩んでいたことが全部出てしまいそうで、怖い。自分が怖い。

「ヒロトと俺は約束したんだ。ずっと一緒にいるって。そしたらヒロト、外国へ行くって言って」

止まらない。全部言って、すっきりしたかったのかもしれない。でも、止まらない。

「何を聞いたって『ごめん』しか言わなくて。俺なんかもうどうでもよくなったんじゃないかって」

視界が滲む。いつの間にか泣いていた。溢れてくるものは止まらなくて、頬を伝う。そのぬくもりはいつだかヒロトが俺に触れてくれたものに近かったけれど、今のそれは自分のもので。

「あのねリュウジ。よく聞いて」

瞳子さんが俺を抱きしめていた。頭を撫でる仕草でさえ、ヒロトを感じる。想いはもう断ったはずなのに、こんな風に感じてしまう自分自身が憎い。

「な、に」

やっと出た声は、情けないものだった。

「父さんが、永くないの」

背筋が、冷えた。







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