ヒロトを殴ったことに後悔はない。あんな言葉をぶつけたことも後悔していない。俺自身、こんな人間だったんだということに改めて気付いた。
あれから一言も、ヒロトとは口をきいていない。もっと正しく言えば、俺が無視している。

俺はヒロトにとって、どんな存在になったのだろうか。
あの日から3日、俺の中での議題だった。もう既に恋人ではないことはわかっている。だったら何だ、友人か?弟か?
それだけで、頭がパンクしそうだった。

学校での昼休み、高校生活で初めて学校の屋上に立った。この間降った雪が原因なのだろう、雪が積もっていた。

「さっぶー…」

吐く息は思ったより白くて、手に吹きかければ案外温かい。と、ここで鳴り響くチャイムの音。もうこの際無視して、授業をサボることに決めた。
ヒロトの恋人ではない、という自分の考えを否定したい自分もいるのだった。現に、目を閉じれば浮かんでくるのはヒロトのことばかり。
例えば、イナズマジャパンでサッカーをしてた頃。あの頃は自分たちの関係を隠すのに必死だったっけ。思わず頬が緩む。でもヒロトが、

『バレたっていいじゃないか。俺たちは俺たちで、堂々としていよう』

ぶっちゃけると、必死だったのは俺1人だった。ヒロトの方は何故かかなり余裕だった。

「はは…」

乾いた笑い声しか出てこなかった。そうだよ、あんなことを言ったって俺はやっぱりヒロトのことが好きなんだ。何かあって、思い出してしまうくらい好きなんだ。

でも、それも終わりにしよう。

高く結い上げた緑髪に触れた。リュックの中の筆箱から、カッターナイフを取り出し、ポニーテールの根元に当てがう。

バサリ

髪をまとめていた白いゴムがあっけなく落ちる。頭の中に響いたのは、いつだったか、ヒロトが俺にくれた言葉。

『緑川の髪は、綺麗だね』

もう、やめてくれ。もう苦しみたくなんて、ないんだ。

冷たい風が吹く。それに乗って、思い出の破片となったそれが飛んでいく。

「さよなら」

やがてそれは、見えなくなった。







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