晩御飯のハンバーグを、翌日の俺やヒロトたちの弁当の分を残して全てたいらげ、園の全員が思い思いのことをしているときだった。俺も部屋で雑誌を読んでいた。もちろんサッカー雑誌。そこで、不意に鳴り響いた携帯のメール着信音。誰だ…?と思いながら開くと、ヒロトからだった。

『これから部屋に来ない?』

いつもならすぐに「行く!」と返信をしただろう。だけどヒロトは受験生の身。しかも有名私立大の経済学部を受験する予定でいる。こんな大事な時期に彼の部屋へ行ってもいいのか、と思考を巡らせて、結局「ちょっと待ってて」と返信し、雑誌を片付け、部屋を出ていった。やっぱりヒロトには弱かった。


「ヒロト?入るよ」

一言告げて部屋へ入る。案の定彼は勉強の途中で、俺の顔を見ると、ちょっと微笑んだ。

「ごめんね、急に呼び出して。大丈夫だった?」
「それは俺のセリフ。勉強は大丈夫なのか?」
「あぁ、息抜きに付き合ってもらおうと思って…。どう?」

それなら、と俺はベッドに腰かけた。ギシ、とベッドのスプリング音が静かになってしまった部屋に鳴り響く。ヒロトがこっちにやってきて、同じように隣に座った。そして目の前にあったのは彼の熱っぽい視線。あぁ息抜きってこういうことかよ、と思ったけれど、そんなことはお構いなしに唇が重なる。初めはついばむように何度も。次第にどんどん深くなって、舌が口の中に入り込んで、貪る。酸素が足りなくて、目の前がチカチカする。唇が少し離れた隙に、息を思いっきり吸い込んだ。

「ちょ…、ヒロト、やり過ぎっ…」
「ごめん、久しぶりだったから、つい」
「ついじゃない!」
「でも気持ちよかっただろ?」

他のことは否定できたって、このことだけは否定できない。目が使い物にならなくなって、ヒロトが触れている唇の感覚だけが頼りになって、そこを貪られる、何とも言えない快楽。もちろんそれ以上だって経験済みだが、俺はめっぽうこれに弱かった。

「勉強、いいの、かよ」

息を整えながら、少しずつ視覚を戻しながら。今彼の目に映る俺の姿はめちゃくちゃ女々しいだろう。勝手に悔しくなりながら、一番大切なことを尋ねた。ヒロトは思い出したようにもう一度俺に寄ってきて、唇を耳に寄せた。…またかよ。ごちゃごちゃの思考の中で出てきたのは、それだった。
でもヒロトは俺の予想に反して、ぼそりと話し始めた。

「俺さ、留学しようと思うんだ」

裏の裏はすなわち表。だがこれは裏の裏でも裏だった。

「…は?」

さらにごちゃごちゃになった思考の中で、やっと出てきた返事だった。







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