出来れば、出逢いたくなかった




「お前、本当にいいのか?」
「うん。ほら早くしないと飛行機着いちゃうよ?」

そう言ってやると、急いで車に乗り込む大夢。

「本当に、いいんだなー!?」
「いいって言ってるだろ!行ってらっしゃい!」

車の窓からも叫ぶ大夢に呆れて動き出した車を見送った。そして俺は、園の雑用に取りかかる。掃除をして、皿を洗って。やることはたくさんあるけど、テレビだけはなんとなく映しておいた。
番組はニュース。そこで特集されているのは、イナズマジャパンのこと。今日、彼らは帰国するから。
結局俺は迎えに行くのをやめた。だけどその代わりに家事を任される始末だったわけだけれども。

「たった今、イナズマジャパンが帰国しました…」

何気無くつけておいたテレビから、キャスターの声。目を移すと、そこに映っていたのは見慣れた赤い髪。笑顔で出迎えの人たちに手を振りながら、堂々と歩いている。
不覚だけれども、そんな姿にドキッとした。

俺が迎えに行かなかった、いや、行きたくなかった理由。それはヒロトを見たくなかったから。
声が聞きたい。顔が見たい。けれども見たり聞いたりしたらいつもの俺じゃなくなってしまう。それが嫌で、みっともなくて。

こんな姿、見せられない。

テーブルを拭いていた手を止めて、テレビを消した。そしてそのまま自室に移動。
ドアを閉めてずるずるとその場に崩れ落ちた。
もう、やってなんていられなかった。ヒロトのことを考えると胸が痛い。苦しい。片想いがこんなに苦しいなんて思ってなかった。
最初はただの憧れだったのにいつの間にか好きになってて。会う度見る度ドキドキして。
こんな俺を見て欲しいなんて思わない。だけどせめて、普通に話せるようにはなりたい。
まぁ多分無理なんだろうな、と思いながらため息を1つ。そしてちょうどそんなときに鳴り響いたエンジン音。

「え、嘘」

この音は瞳子さんの車の音。さっきのテレビ中継からそんなに時間はたっていないはずなのに。
もう少しこうしてぼーっとしていたかったけど、重い腰をなんとか持ち上げる。
そして、久しぶりに会う彼を出迎えるために、渋々部屋を出た。

もしもの話だけれども、もし俺とヒロトが出会っていなかったら、俺はこんな思いをせずに済んだのかな?
もしそうだとしたら、もし可能だとしたら、

できれば、出逢いたくなかった。



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君、片想い」さんに提出

素敵お題ありがとうございました!





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