気持ちを込めて




「うわ、これ懐かしい!!」

姉さんに言われて緑川と2人で倉庫の掃除。とりあえず中のものをなんとかしよう、ってなったときに、緑川が声を上げたのだった。


「どうしたんだい?」

そっと緑川の手元を覗き込むと、その手に握られていたのはウサギのぬいぐるみ。

「ヒロト、覚えてる?」

そう言ってキラキラした目で見てくるものだから、これは答えざるを得ないのだろう。

「ああ、覚えてる。確か俺がずっと持ってたやつだよね」

男なのにおかしいと思うかもしれないけれど、姉さんが小さい頃から持っていた、という事実に反応した小さな俺は、姉さんが…という理由にもかかわらずそれをもつことを決めたのだった。

「ヒロトずっと離さなかったんだよね、俺も触りたかったのに」

そしてその視線の向いた場所は、あの頃よりずっと色褪せてくったりとしたウサギだった。
もともと色はかなり褪せていた。生気を失ったようにくたくたしていた。それでも大事にし続けたのは、姉さんのことだけじゃなくて俺自身やっぱりこのぬいぐるみをかなり気に入っていたのかもしれない。小さかったからあんまり覚えていないけれど。

「…なぁヒロト、これもらってもいい?」
「えっ」

突然のことにびっくりして変な声が出てしまった。これが欲しい?緑川、君本気で言ってるの?

「…だめ?」

いや、ちょっと待て、ここで上目遣いは反則だろ!そんなうるうるした目で見られると俺が我慢できなくなる。

「ちょっとびっくりしただけだよ、大丈夫。…そもそも、どうして?」

早鐘を打つ心臓をなんとかしながら緑川に答えを送る。そう言うと何故か、緑川のくりくりした黒目があっちこっち動き出した。なんだか忙しそう。

「あのさ、笑わないで聞いてくれよ?」

妙に赤い顔をしながら視線をしっかりと俺に向けて、言ってくれた。

「ヒロトのものが欲しかった」

これが緑川以外の奴のセリフだとしたら俺はかなり引いたであろう。だが、このセリフを発したのは緑川張本人。当然、俺のテンションは上がったわけである。
だけれども、緑川の欲しいものが俺の「もの」だということには多少だが落ち込んでしまう。好きな人には自分の「もの」よりも自分を大事にしてもらいたいわけで。常に愛して愛されていたいわけで。
だから、行動に出てみた。

「それもいいけど、俺も忘れないでくれよ?」

ウサギが握りしめられたその手を軽く取ってキスしてみれば、薄暗い中でもはっきりわかるほど顔を真っ赤にした緑川がいた。





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