図書館にて




壁一面に並ぶ本、本、本。
正直言って、俺は本というものがかなり苦手だったりする。だけど、ヒロトが「一緒に来ない?」などと言わなければ来ることのない場所。それが図書館。


本の中でも唯一好きなマンガと、情報収集のための雑誌をいくつか探し出していると、後ろから聞き慣れた声が俺の背中にぶつかる。

「緑川はマンガ好きだなぁ」
「悪いか!?ほら、サッカー雑誌だってあるよ!」

思わず声を強くしてしまった。周りにいた人たちからの視線がかなり痛い。なんだか申し訳なくてしゅるしゅると身体が縮こまる感じがする。ヒロトも迷惑に思ってないかな、と思ってちらりと彼を見上げてみれば、必死に笑いをこらえていた。

「おい!何笑ってんだよ!」

今度は小さな声で。さっきのことでちゃんと学習したことを生かした。

「ごめんごめん。なんだか面白くて。さぁ、行こうか」

笑顔でそう言ったヒロトの手元を見てみれば、俺じゃ絶対最後まで読めなさそうな分厚い本が5冊ほど重なっていた。

そもそも、本が嫌いな俺が図書館に行く理由。「緑川も本好きなんだね」と来る途中で言われたけど、目的は違う。ヒロトと一緒にいたいだけ。それだけ。だから、嫌なこの場所も大丈夫なのだ。
図書館に行くと、園では見られない彼が見られる。2人だけで行くから、彼を1人占めできる。なんかもう、下心たっぷりだけど仕方ないだろう。好きな人の色々な表情が見たいのは当たり前だから。

お互いに読みたい本を両手に抱えて階段を上がり、読書室へと移動。まだ早い時間だったからあまり人はいなくてがらんとしていた。何とはなしに隣同士に座り、お互い本を読み始める。が、ちらりとヒロトを横目で見てみる。
カバンの中から眼鏡を取り出しスッとかけると、分厚い本のページをめくり始めた。その指の動きがいちいち、なんかこう、色っぽくてドキドキする。ふっ、と視線がこっちに移る。

「読まないの?緑川」

俺に聞こえる程度の囁き声で話かけられて、あわてて自分の手元にあったマンガに視線を戻した。


あれから何時間が過ぎただろうか。結局俺はヒロトが気になって気になって自分のマンガや雑誌に集中できなかった。現に、今だって。
少しずり落ちた眼鏡を中指で上げる動作だとか、目が痛くなってきたのか、少し目を休めるために目を閉じたときの表情だとか。
だが眼鏡してサッカーはやめてほしい。俺が集中できない。

そして再び目が合った。
その目は不思議と優しくて、大人っぽい。本に伸びていたはずの手はいつのまにか俺の頬を滑っていて…って、何してんだ!

「ちょっと、待て!見られるだろ!」
「なんで?もう誰もいないんだけど?」

少し周りを見渡してみれば、入ってきたときいた人は皆いなくなっていて、今この空間にいるのは俺たちだけ。

「ね、キスしてもいい?」

触れている手が熱いのか、それとも頬が熱いのか。それすらわからないほど熱くて熱くて、ヒロトに酔う。

スッと手を伸ばし、ヒロトの眼鏡を外す。さっきまでの真面目な表情はどこへやら。いつも俺をからかうような、いたずらっぽい顔のヒロトがそこにいた。
そっと顔を引き寄せられて、触れるだけのキス。こんなところでしているおかげで、いつもより緊張する。それは相手も同じようだった。



「緑川もさ、ああいう本読めばいいのに」
「やだ」

図書館からの帰り道、ヒロトに突然話しかけられた。
ああいう本、とはさっきまでヒロトが読んでいたような分厚い本。無理だ、俺には無理だ。でもさすがに、

「でも、次行くときだって来るんだろ?」

この言葉には、完全否定できない俺がいた。





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