もどかしい距離




ライオコット島からのテレビ中継。内容はもちろんイナズマジャパンの試合。
それを園のみんなで観戦。ボールを奪ったり奪われたりする度に上がる歓声。もちろんその中心にいるのはヒロトである。

「なぁリュウジ」

隣にいた晴矢が頬杖をついて、視線はテレビに向けたまま話しかけてきた。俺は一応晴矢の方を向く。

「お前さ、寂しくないのか?」
「は?」
「だからさ、ヒロトが遠くにいて寂しくないのか?」

そして何秒かの空白。出てきた答えは、

「全然」

という、ヒロトがなんとも不憫なものだった。

遠距離恋愛って寂しくないですか、と聞かれれば寂しい、と答える人もいるしそうでもない、と答える人もいるだろう。ちなみに俺は後者…のつもりである。
だって今ヒロトはライオコット島だし、俺は日本だし。それにヒロトはテレビ越しだけど見られるし。寂しくないって言ったらヒロトが怒りそうだけど、実際あまり寂しくないのだから仕方ない。

「なんでだよ?俺は風介がいなかったら無理だな、絶対」

なんだよそれのろけかよ、とか思いながらも自分が不思議に思える。

「だってさ、俺約束したんだ。日本にいる間はヒロトと連絡取らないって」
「なんで」
「俺が代表に復帰するから。そしたらまた会えるから。寂しがってる暇なんてないんだよ」
「ふーん…」

なんて会話をしているうちに、試合終了。勝者はやはりイナズマジャパン。

「あ、ヒロトだ!」

誰かが声を上げた。それに反応するようにテレビを見れば、その向こう側には見慣れた赤い髪。どうやらインタビューのようだ。

『今回は大活躍でしたね』
『はい、シュートをたくさん決められてよかったです』

質問にもにこやかに答えるヒロト。こういうのを見て女の子たちはかっこいいとか思うのだろう。もちろん俺もだけど。

『何か支えのものでもあるんですか?』

え、何この質問。とか思っって顔を上げたときには遅かった。

『はい、います。大切な人が』
『その方は今どこに?』
『日本です。いつか戻って来てくれると信じています』

そしてこちら、というよりカメラの方を向いて微笑んだ。それはそれは、見ているこちらが見とれてしまうほどの笑顔で。

「愛されてんな、お前」

晴矢がニヤニヤしながらこちらを見ている。恥ずかしい。なんてことを言ってくれるんだヒロトは。

「ごめん、部屋戻る」

ちょっと待てよ!とか晴矢の声が聞こえるけど気にしない。部屋のドアを勢いよく開け、勢いよく閉めた。後で怒られることは覚悟しておこう。

ってか、なんだよヒロトは。公衆の面前であんなこと言いやがって。

だけど、ヒロトに会いたい俺がいた。せめて声だけでも聞きたい俺がいた。

今すぐ会って、一発殴りたい。そんで、文句の1つでも言ってやりたい。
で、それで…。抱きしめたい。
力いっぱい、ぎゅっと抱きしめて、俺も大切だって伝えたい。ヒロトばっかりに言わせておくと、いつかきっと俺が爆発しそうだから。
そう思いながら、真っ赤な顔を布団に埋めた。

寂しくない、とか言ったくせに、会わなくても平気だと思ってたのに、もうヒロトに会いたくなってる。声が聞きたくなってる。「緑川」って呼ぶあの声を、耳が求めてる。でも約束したし…。
そんな自分自身の心との葛藤の間に俺の目に入ってきたのは携帯電話。それに向かって手を伸ばしてみるけど、また引っ込める。そしてそれの無駄な繰り返し。

ヒロトの声が聞けるか聞けないか。この距離がもどかしい。

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企画「愛じゃなくていい 恋じゃなくていい」様に提出

素敵お題ありがとうございました!





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