ドロップアウト!




目の前には、世の中では「酒」という部類に入るものが入ったコップ。
そして俺の目の前にいるのは、真っ赤な顔をして床に座っている緑川。

「えへへ、ヒロトぉ…」

そののんびりとした口調から、どうやらその酒を飲んでしまったらしい。コップの中を見る限り、少ししか減っていない。

と、いうことは。

「お前、そんなにお酒に弱かったの?」
「ふぇ…?」

眠たそうな顔で答えられた。普段見ることのないその素直そうな顔は、十分俺の本能を掻き乱す。

だが、我慢せねばならないのはいつものこと。

「ヒロト、抱っこしてぇ」

ん、と両手を伸ばしてくる。
残念ながら緑川と同じような体格を持つ俺には、悔しいことに彼を抱っこするだけの力など持ち合わせていない。仕方ないから、後ろを向いて、その両手を首に回させた。

「うわぁ、おんぶだ!おんぶ!」

きゃっきゃっ、と後ろではしゃぐ緑川。酔ったことで赤ん坊返りしてしまった彼は、いつも見せる可愛らしさとはちょっと違う可愛らしさを見せていた。

結局は、なんだかんだ言っても緑川は可愛い。
可愛いものは何しても可愛い。

すっかり俺の身体に体重を預けて大人しくなってしまった彼を、彼の自室まで運ぶ。両手が塞がってしまっていて、ドアが開けられなかったのは、緑川が開けてくれた。
ベッドの上に下ろすと、ころり、と寝転がる。

「じゃあ緑川、俺行くから」

これ以上いたら緑川に被害が及ぶ。そう判断した俺は、足早に緑川の部屋を去ろうとした、が。

「待ってぇ…。行かないでぇ」
「は?」

思わず聞き返してしまってから、後悔した。
緑川の瞳は潤んでいたし、顔だって紅潮。おまけにその舌足らずな口調は、俺の理性をぶち壊しにかかっている。

「行っちゃ、やだぁ…」

今にも泣きそうな顔に理性が半崩壊。ベッドに近づき、そっとその頬を撫でると、嬉しそうにへへへ、と笑う。
そして顔を近づけてみると、何をするのかわかったのか、緑川のまぶたが閉じられた。
ゆっくり、慎重に。唇を重ねる。緑川の唇からは、なんとなくだけどお酒の味がした。重ねるだけのキスじゃ物足りなかったらしくじりじりと身体が近づいてくる。唇が離れて、

「ヒロトぉ…」

緑川が艶やかな声で俺の名前を呼んだ。

さようなら理性。こんにちは本能。

緑川のポニーテールを解いて長い髪を露にし、その頭を包んで唇を貪った。

「ふぁ…、んっ」

合わせた唇から時々漏れるその声は、俺をさらに興奮させる。
ゆっくりとベッドに押し倒し、緑川の服に手を掛けたときだった。

緑川の呼吸がおかしい。妙に規則正しく、スースー、と鼻で息をしている。

「みどりかわー?」

…反応無し。

「リュウジー?」

…やはり、反応は無い。

緑川を押し倒したまま、大きくため息をつく。
生殺しにされた俺は、なんとも不憫だったことだろう。
そんなことは全く知らない緑川は、幸せそうに眠っている。そりゃあ、あれだけ酔っていればね。

仕方ないから寝ている緑川の身体に布団をかけておいた。風邪引くと困る。

…でもこれくらい、させてくれ。

もう一度緑川の身体にのしかかり、先程俺のせいで赤くなってしまった唇にキスを落とした。





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