一糸纏わず




しゅるり、と高く結い上げた髪を下ろす。ずいぶん長くなったもんだ、と自分で感心しながら着ている服も全部脱ぐ。
そして扉を開ければ、真っ正面から大量の湯気をかぶってしまった。



風呂は好き。
お日さま園の湯船はみんな一斉に入ることが多いせいか、大きい。小さい頃は、よくこの中で泳いだりしていて、砂木沼さんに怒られたっけ。

ちゃぷり、と小さな水音を立てて、少し熱めのお湯に浸かる。髪の毛はお湯で濡れないように、後ろで1つにまとめた。よく見渡してみると、晴矢が泳いでいる。そしてそれを見て呆れる風介。小さな頃から見ている光景。そして、いつも俺の隣にやってくる人物も。

「今日のお湯、少し熱くない?」

そんなことを言いながらも、大人しくお湯に浸かっているヒロト。ほどよく筋肉がついた身体が妙に頭にこびりついて、何とも言えなくなった。
そして近くに寄ってきたと思ったら、

「ち、ちょっと待て!」

突然、手を握られた。こんなところで何するんだ、と頭が混乱。そして熱い。お湯の熱さか自分の熱かよくわからないけど、とにかく熱い。

「やだな、俺だってこんな人目のあるところでやろうだなんて思わないよ」

ヒロトはこう言う。だがその身体は違う。人目があろうがなかろうが、ムードさえあれば何かする。それが基山ヒロト、14歳。
あまりにもやらかすには若い年齢に呆れる。俺の方が若いけど。

「だけどさ、その手は何?」

その手、とは。
まさに今、ヒロトの白い手は俺の背中に回ろうとしていた。いつもは服の上から触れられるから平気だけど、今は裸。直接触れられているので、ものすごく敏感になってしまう。するり、と肩が撫でられる。反射的に目をぎゅっと瞑ってしまい、身体全体に力が入ってしまう。

「目、開けなよ」

そう言われておそるおそる目を開けると、熱さで上気した頬、湯気でしっとりと湿った赤い髪に、ほんの少しだけ浮き出る鎖骨。そんな、何とも言えぬ色っぽさを醸し出したヒロトがそこにいた。

「え、ヒロト…?」

そして結局、抱きしめられただけだった。
キスもせず、あまり話すこともせず、ただ抱き合うだけ。やっぱり直接肌と肌が触れるとくすぐったい。しかも濡れているから余計に。

「ごめんね、ちょっとこうしたかっただけ」

耳元でそう囁かれて、肩に顎が乗った。そんなヒロトを抱きしめようとそっと背中に腕を回そうとした、ときだった。

「イチャイチャしてんじゃねーっ!!」

晴矢の突然の叫びとともに飛んできた石鹸は、見事にヒロトの額に命中したのであった。





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