君色ドロップス 目覚まし時計よりも早く携帯が鳴る。こんな朝早くに誰かと思って携帯を開くと、「今日は楽しみにしてる!」とまるで遠足にでも出かけるように元気のいいメール画面だった。 「風丸、遅い!!」 「緑川が早すぎるだけだろ…」 それもそうか、と笑う緑川の頭を小突く。実際俺は約束の10分前には来ていたから遅れてはいない。 今日は2人で遊びに行く。FFIのアジア予選のときに稲妻町を案内したのがとても楽しかったらしく、メアドを交換し、また一緒に遊ぼうということになったのだ。 そして今日がその日。 「なぁ風丸!どこ行きたい?」 俺の服の裾を引っ張る緑川は、早く行きたくてたまらないらしい。 「そうだな…。遊園地でも行くか?」 ぱあっと明るい顔を見せる緑川。彼曰く、遊園地には行ったことがなかったらしい。 今時そんな奴もいるのか、と思ったが、まぁ彼らの生活環境からすれば行ったことがなくても仕方ないと思う。 「なぁあれ!あれ乗りたい!」 結局やって来た遊園地。アトラクションを指差し、まるで子供のようにはしゃぐ緑川。確かに俺たちは子供だけれども、このテンションの上がり方はものすごいと思う。 ジェットコースターにコーヒーカップ。1つずつ順番にアトラクションに乗っていく。幸いあまり混んでいなくて、スムーズに乗ることができた。 男子2人がこんなところで遊ぶなんて何とむなしい光景だろうか、とも思ったけれど、この長い髪のせいか、女子に見られていることもあったらしい。高校生くらいの男の人に声をかけられたりもしたのだから。 「ゆ、遊園地って、こんなこともあるんだな…」 マンガの中だけかと思った、と緑川が息を切らしながら言う。 「すまない、疲れただろう?」 その高校生たちを撒くために、俺のペースで走らせてしまったせいか、緑川の息切れが激しい。少し休憩しよう、とフードコートに入り、腰を落ち着ける。ひんやりとしたクーラーの空気が今の俺たちには心地よい。 「緑川、何か食べたいものあるか?」 手のひらで顔のあたりを扇いでいる緑川は、とても暑そう。顔も真っ赤だし。 「んー…。アイスが食べたいかな」 「味は?」 「…抹茶」 レーゼの頃の髪型を思い出して、ちょっとだけ笑ってしまう。その笑っている理由がわかったらしく、あれは黒歴史!忘れろ!と慌てながら緑川は言った。 お金を払い、抹茶のソフトクリームとアイスティーを受け取る。アイスティーは勿論俺の。それを待っていた緑川のところへ持って行くと、とても嬉しそうな顔をした。 ペロペロとソフトクリームを美味しそうに舐める。 そういえば、今日だけで緑川の色々な表情が見られた気がする。最初に見た怒った顔、嬉しそうな顔、慌てた顔、好きなものを食べているときの幸せそうな顔。 くるくると変わる表情は、どれも新しい発見で見ていて楽しかった。 「かぜまるー?」 「ん?…うわっ」 突然口元に近づけられたソフトクリーム。彼の髪と同じ色をしたそれは、すっかりその形を崩していて、綺麗なドーム型になっていた。 「一口あげるよ」 「え、なんで?」 「風丸、ぼーっとしてたから。地球にはこんな言葉があるよ。腹が減っては戦はできぬ、ってね」 へへ、と笑った緑川の差し出すソフトクリームをペロリと一回だけ舐め、その頭を撫でてやった。 「さて、次行くか」 「ちょっと待って…。よし、行こう!」 驚くべき速さでコーンまで食べきった緑川が立ち上がる。 「次、風丸の乗りたいやつ乗ろうよ。さっきまで俺の乗りたいのに付き合わせちゃったから」 そう言って、俺の手を引いていく。目の前には、緑色のポニーテールが犬のしっぽみたいにゆらゆらと揺れている。 でも俺は、アトラクションとかに乗ってるよりも、緑川のそばにいられれば…とか心の隅っこで思った。 口の中にはまだ、ほんの少しだけ抹茶の苦味が残っていた。 |