指だけ、そっと




「佐久間の指は細いな」

女子みたいで、とその付け足された言葉にイラッときて、股のあたりに思いっきり蹴りを入れてやった。


そりゃ、男にしては細い方だと思う。それに大きさだって胸を張って自慢できるようなものではない。
結構コンプレックスだったりするのだ、この容姿の次あたりに。

「でも、そんなに気にすることでもないと思うが?」

蹴られたところをさすりながら、源田は言う。

「お前は気にしなくても俺は気にする」

その、さすっている手を見ながら言った。
ごつごつしてて、太くて、それでいて大きくて。
キーパー、という役割のせいでもあるのだろうか、なんとなく頼りになりそうな雰囲気まで持っている。
男らしいな、とか思う自分がいるけど、それを心の中で全否定する。ない。俺がこいつに憧れるなんてない。

よくよく考えてみれば、俺はこの手(というか腕)に抱きしめられたりしているわけで。この手に顔を支えられたりしているわけで。挙げ句の果てに、この手と自分の手を繋いだりもしているわけで。

そこまで考えたらまたイライラしてきて、源田を睨む。
勿論、彼は何もしていない。だけど、このイライラの原因は彼である。

そうしたら何故か源田は俺の手を握ってきた。手というか、指。
そして何故だかわからないが、その指を愛しそうに見つめている。その顔は実に優しそうで、その辺の女子なら一目惚れしそうな顔だった。

「俺は佐久間の手、好きだぞ」
「は?」

突然何を言い出すのかと思ったら、こんなこと。呆れてしまって、ため息をつく。

「こんな手なのに力強くて、努力してて」

中指の爪のあたりに源田の指が触れる。少しくすぐったくて手を離そうとしたけど、俺が源田の力に敵うわけがない。さらに強く握られて、逃げられる可能性が急降下。
もうどうにでもなれ、と潔く諦めた。

「俺を殴ったりするときは容赦しないしな」
「そりゃそうだ」

おいおい、と軽く笑みをこぼす。

「佐久間はごつごつした手よりこっちの方がいいぞ」

もう片方の手が、ぽん、と俺の頭に乗った。
源田に握られていない方の手を、隠れて握ったり開いたりしてみる。なんだかんだ言って、俺にはこのくらいの大きさがちょうどいいのかもしれない。

「…よし」

だっ、と走り出した。
うわっ、とか後ろの方から聞こえるけど気にしない。手じゃなくて、指だけ繋いで。

手は繋がせてやらない。
一種の仕返しのようなもの。源田のせいでこんなにイライラしたんだし。

そして奴はすぐに俺に追い付いて言ってくれた。

「佐久間の手、女子よりも綺麗で好きだぞ」

すぐに立ち止まる。
ごめん、言い忘れた、と笑うその顔を見て自分が喜んでいいのかわからなくなった俺は、とりあえずさっきと同じ場所を蹴っておいた。



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