不意打ちは危険




とりあえず横に引っ張ってみる。反応が全く無いので、次はそれを少し上に引っ張ってみる。だがやはり反応は無い。

「…起きろ、晴矢」

引っ張っていた頬から手を離し、ぺちん、と軽く叩いた。


朝食の時間になっても全く起きてくる気配のない晴矢。起こして来てくれ、と頼まれたのが20分程前。
彼の部屋に行ってみれば、それはそれは気持ち良さそうに眠っていた。良い夢でも見ているようにしか見えない顔で。
そして起こしてみようと努力してみるのだが、全く起きない。
こうして今に至る。

頬をいじるのにも飽きたので、どこをいじろうか悩んでいると、晴矢がピクピクと動く。変な唸り声まで出して。
それがなんとなくおかしくてまじまじと眺めていると、ふと思い当たることがあった。

ここまで安心したような晴矢を、見たことはない気がする。

近くにいるのに、見たことのないもの。なんだか急に愛しくなるそれ。起こしに来たはずなのに、本来の目的を忘れたようにじっくりと見てしまう。とりあえず、ベッドの脇に座って眺めていた。それまではよかった。

急にベッドから伸びてきた手。
すっかり油断していた私の腕を掴み、ものすごい力で引っ張られた。ぽすん、と身体に柔らかい感触、目を開けると、ぱっちりと目を開けた晴矢が目の前にいた。

「よぉ」
「き、貴様…!いつから起きていた!?」
「んー?風介が来た辺り」

ニヤニヤとしている目の前の奴に腹が立つ。こいつは私の行動を一部始終わかっていたらしい。要は私を騙していたわけで、やっぱり腹が立つ。

「おい!離せ!」
「やだ」

私の身体が落ち着いた先は、晴矢の寝ているベッドであって、晴矢に抱きしめられている、というのが今の状況。そしてその腕の力を強くしたものだから、思いっきり抵抗している、というのも今の状況。

「いいじゃねぇか、たまには」

よく考えてみれば、晴矢とは一応恋人という間柄なのに、あまり恋人らしいことはしていない。いろいろ忙しいのと、私が拒否するから。だが、今日ばかりは拒否権は全く無いらしい。

「…今日だけだぞ」

私も腕を晴矢の首に回し、すっかり熱が集中してしまって熱い頬を肩に埋めた。温かい晴矢の手が、私の頭を撫でていることはなんとなくわかった。

「うん、まぁ、とりあえず」

そして私の耳元に顔を寄せて、呟いた。

「おはよう」

その後に何故か額にキスしてくるものだから、反射的に晴矢を殴っていた。



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