隣にある温もり




学校の帰り道、冷たい風が首筋をなぞる。その寒さに耐えかねて、コートの首元に顔を埋めた。

「あれ?お前、マフラーは?」

ふと隣を見れば、一緒に歩いていた佐久間が俺の首の辺りを見上げていた。

「家に置いてきた」
「はぁ?」

馬鹿じゃねぇの、とでも言いたげな表情。眉間にはシワが刻まれている。
手も冷たくなってきたので、はあっ、と手に息を吹きかけた。すると、また佐久間の眉間のシワが深くなる。

「手袋も置いてきた、とか言わないよな…?」
「そのまさかだ」

呆れたように盛大なため息を1つついて、手袋をはめた佐久間の手が、俺の片手を包んだ。

「お前、キーパーだろ?手を大切にしないでどうする」

確かに今は寒いけれど、天気予報では日中ずっと晴れだったから帰る頃になっても大丈夫だろうと高をくくっていた。それがこのザマだ。



俺の片手をこすり終えると、もう片方の手をこすり始める。その動作がなんともかわいらしく、こすってもらって少しだけ温まった片手で佐久間の頭を撫でた。

「…なんだよ」
「ありがとな、心配してくれて」

馬鹿、と小さく呟いた佐久間は顔を見せないように俺の手を握っていた。

「佐久間、手、繋ごうか」

その時俺の視界に入ったのは、ぽかんとした表情をした佐久間だった。そして、みるみるうちに赤くなっていく。

「ば、馬鹿!こんな人がたくさんいるところでできるかよ!」

だけど、言葉とは反対に、俺の手を握りしめる佐久間の手は、握る強さを増している。
俺はその手を無理矢理取って、歩き始めた。

「うわっ…と、ちょっと待て!」
「なんだ?」
「返事を待てよ返事を!」

真っ赤な顔で言われても、迫力なんてありはしない。佐久間のかわいさが増すばかり。

「手、繋いでもいいか?」

改めて聞いてみると、仕方ない、という小さな返事が返ってきた。

「じゃ、行こうか」
「あー…、ちょっと待て」

何をするのかと思えば、俺の手と繋がない方の手の手袋を外し、俺に渡した。

「どうせなら、素手の方がいいだろ」
「渡してくれたのはありがたいが、入らないぞ、小さくて」

うるせぇ、と言って俺の足を佐久間が軽く蹴った時、俺は自分より小さな佐久間の手を、ぎゅっと握る。その手は、とても温かかった。そして俺の頭に名案。

「やっぱり繋ぐんなら、」

この方がいいだろ?と、手のひらを少しずらして、指と指を絡める。驚いて伸びきってしまった佐久間の指も、そっと握り返してくれた。

「源田」

俯いた佐久間が、また独り言のように呟く。

「今日、お前が手袋忘れてくれてよかったかもしれない」
「なんで?」

言わせるな馬鹿、と少し顔をしかめた佐久間は、繋いでいる手を少しだけ握り返してくれた。



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