火照った身体に酔わされて




「げんだー」

ふわふわとした口調、でもなんだかだるそうな声が俺の名前を呼ぶ。
振り返ってみれば、真っ赤な顔をした佐久間が俺の部屋のドアを開けた。

濡れた髪、とろけるような表情。そしてTシャツから伸びる細い腕とかに一瞬理性を失いかけたところをなんとか押さえた。

「風呂、空いた」

佐久間のセリフから、ああ、今日は泊まりに来てるんだっけと思い出す。
そしてふらふらと歩き出した佐久間。体はゆらゆらと揺れている。

「佐久間、逆上せたのか?」
「別にぃ」

ずいぶんゆったりとした口調だなと思った。そして次の瞬間、床の何もないようなところでつまずいてしまう。倒れそうになる体を抱き止めると、腕の中の佐久間が微笑んだ。

「げんだぁ、ベッドまではこんでー」

完璧に逆上せているのだろう、歩く気が失せているらしい。そのまま膝の裏に腕を入れて持ち上げると、安心したのか全体重を俺に預けてくれた。

そしてベッドに寝かそうとすると、いやいやと首を振る。

「どうしたいんだ?」

そう尋ねてやれば、小さな声で、そのまま座ってと言われた。言われた通りにそのままベッドに座ると、佐久間が少し動いて、俺の膝に座ったまま、正面から向き合った。そして抱きつかれる。鍛え上げられた褐色の脚は、俺を挟み込むようにベッドの上に投げ出されている。

「…源田」
「なんだ?」

耳元で、小さな声が語りかける。

「俺がお前に自分からこういうことするの、こんな時くらいだぞ」
「そうだな」
「だから、」

背中に回った腕の力は相変わらず抜けたまま。でもその腕がわずかに俺を抱きしめるように動く。

「しっかり堪能しとけ」

その言葉に返すものは何もなくて、立場が悪くなったのか、はたまた苦しいのかでうー、と唸る佐久間の体を支えるように、俺も背中に腕を回した。


そしてしばらく経ったころ。少し回復したらしい佐久間がもぞもぞと動き出した。そう、それはまるで――

「源田」

突然耳元に佐久間の声が響く。抱き合ったままだったから仕方ないだろうけれど。

「シたい」

…やっぱり。

「ダメだ」
「なんで」
「なんでって、今の状態のお前とできるわけないだろう!」

俺の返答にチッ、と舌打ちをする。そりゃそうだろう、今の今まで俺の腕の中でぐったりしてた奴とできるわけがない。

だけど、頭ではそう考えていても、体は全く別の返答をしていた。

要は、欲情していた。佐久間の体に。

あの綺麗な脚をさらけ出し、いつも纏うあの張りつめた空気を脱ぎ捨て、かなり無防備になった恋人に欲情しないはずがない。

だがそれを俺の恋人は見抜いていたらしい。

「お前のも、こんなに反応してるのに、さ」

そう言って、俺のそこに触れる。その表情は酷く妖艶だった。

「どうなっても知らないからな…!」

それだけ言って、佐久間をベッドに押し倒した。



「んあっ、ふ…やめっ…、あ…は、」

俺の下で気持ちよさそうに喘ぐ佐久間の体は、逆上せたせいか羞恥のせいかわからないけど、熱かった。
そしてその熱に溶けてしまいそうな俺がいる。
この体に、すっかり酔わされた俺がいる。

そんなことを考えて、上気した佐久間の頬を撫でた。

「ひあっ、ん…げ、んだ?」
「辛くないか?」
「だ、いじょぶ、…ふぁあっ!」

あんなことを言ったものの、佐久間に無理をさせたくなかった。

「お、い…」

はあはあと息を吐きながら必死に声を出す佐久間。見るからに辛そうだった。が、

「我慢、してんじゃねーよ…。本気で、やれ」

いつもなら、こんなこと絶対言わない。

そしてその言葉に完璧に理性を失った俺が、翌日になって腰が痛いと言って寝込んでいる佐久間に、おもいっきり頭を叩かれたのは言うまでもない。



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