壊さない、壊したくない 朝起きると、隣にいるはずのマモルくんがいない。もう毎朝のことなのに、未だに慣れない自分がいる。ほんの少し寝ぼけ気味でそろそろとベッドから起き上がり、無造作に髪をまとめる。階段を下りると、トントン、と包丁の規則正しい音が聞こえてきた。目が合うと、必ずニカッと笑顔で言ってくれるんだ。 「おはよう、フユッペ!」 久遠冬花が円堂冬花になって変わったのは名字だけではない。お父さんと2人で生活していた頃とはガラリと変わってしまった。前までは家事も全て私がこなしていたけれど、結婚してからは2人で分担して家事をするようになった。フユッペだけに家事を任せるわけにはいかない。これがマモルくんの言い分だった。 「おはよう、マモルくん。盛りつけ手伝うね」 「おう、ありがとう」 マモルくん特製のサラダを2人分に分ける。毎朝作っているだけあって、どんどん腕は上がってきている。私も負けられない。 「よし完成!フユッペ、俺もやるよ」 お皿に盛りつけられた目玉焼きやハム、トーストやオレンジジュースを見て、この人はとことんやるときはやる人だなぁ、と苦笑した。 マモルくん特製朝食を食べながら話すのは、だいたい雷門中サッカー部のこと。以前、天馬くんという子が遊びに来たのは記憶に新しい。そんなことを話したらマモルくんは微笑んで、 「じゃあ、今度はほかの部員も連れて来てやるよ!」 「うん、またご飯作って待ってるね」 絶対壊れることのない、この朝の風景。私はこの時間が大好きだ。お父さんから聞いた革命のこともあるけれど、マモルくんにとって、この時間だけでも安らぎの時間になりますように。そんなことを考えた。 「フユッペ、今度雷門に来ないか?」 「…え?」 いきなりの誘いに少し困惑。もし行ったとしても、私にできることなんてあるのだろうか。そんな私の気持ちを汲み取ったかのように、マモルくんは、 「マネージャーたちがまだ危なっかしくてさ。フユッペが色々教えてくれると助かるんだけど」 そういうことなら、と頷いた。仮にも日本代表のマネージャーだった身だ。それくらいなら力になれる。 「よし、それじゃそろそろ行こうかな」 マモルくんのお皿は、すでに綺麗になっていた。時計を見ると、朝練がそろそろ始まる時間。 「片付けはやっておくね」 「おう!じゃあ行ってきます!」 元気よく飛び出していく背中を見送った。身体は大人になっても、中学生の頃とは全く変わらない、変わることのない、その背中を。 |