助け船 最近、神童がとても忙しない。お前、いつかぶっ倒れるんじゃないか?って勢いで。 サッカー部のキャプテンの他にクラス委員までやっているからそりゃ当然なのだろうけれども、あれは異常だ。そんなことやってない俺の目から見ても。 毎日先生から押し付けられる雑用をこなし、放課後は2年生ながらチームの皆に指示を出す。なるほど、クラスの(クラスだけじゃないけど)女子に人気があるのもわかる。って、そんなこと考えてる場合ではない。実際、目の前に早速先生から渡されたであろう荷物を抱えている神童がいるのだから。 「重いだろ。半分持つよ」 「大丈夫。教室までもう少しだし」 適当に流されるけれど、そこで諦める俺ではない。神童から荷物を半ば強引に奪い取り、隣に並んで歩き始める。最初は驚いた顔をしていたが、ふっと優しい顔になった。 「霧野は、いつもそうだ」 「は?」 突然発された言葉に唖然とする。いつもってなんだ。いつもって。 「俺が困ってたり、疲れてたり。何かマイナスなことがあったときはいつも助けてくれる。昔からそうだ」 よく考えてみれば、そうかもしれない。神童が辛い思いをするのが嫌で、困ったり、泣いた顔を見るのが嫌で、小さな頃から―そりゃもう幼稚園の頃から彼と一緒にいた。どんな些細なことでも、俺がいつも助け船を出してやれるように。力になってやれるように。 中学生になってからは、昔より助けるような機会は格段に減ったけど、一緒にいることだけは変わらなかった。なんだかんだで変わらない、泣き虫のパートナーのそばにいることが日常と化していたんだ。 「霧野!何ぼーっとしてるんだ?」 いつの間にか教室にたどり着いていて、机の上に荷物が乗っていた。神童はまさにその梱包を解こうとしていたところだった。 「悪い!」 急いで教室に入り、梱包を神童に解いてもらう。2つ持っていたんじゃさすがに重かったそれの中身は苦手な数学の問題集だった。 パラパラとめくってみても、意味がわからない。 「また、俺の家に来いよ。それ、教えてやるから」 問題集から顔を上げると、神童が微笑んでいる。 「ああ!」 問題集を箱の中に戻し、おもいっきり神童の肩を抱きしめた。おい霧野、苦しいとか言われた気がするけど聞こえなかったことにしておこう。 助けてばかりだったのだと思ったけど、俺がお前に助けられていることの方が多いのかもしれない。現に、今だって、お前がそばにいると安心できるから。 |