※高校生な一秋 Only one 一之瀬くんが帰ってくる。その知らせを聞いたのは彼からの電話だった。 『来週、日本に帰るよ』 ずっと離ればなれだった彼。会うのはそう、FFIのとき以来だから3年ぶりくらいだろうか。 私はその日が楽しみで楽しみで仕方なくて、夜ベッドに入ってもなかなか寝付けなかった。学校に行っても上の空、授業の内容も頭に入ってこなくて、家で復習しようと思ってもできるような状態ではなかった。 授業が上の空なら部活だって上の空。普段の私ならしないようなミスを繰り返し、終いには円堂くんに、「秋、お前熱でもあるのか?」と言われてしまった。 高校生になってから、私の身の回りはかなり変わった。中学の頃とあまり変わらないような子や、ガラッと変わってメイクしたりしている子。私は前者だったりするのだが、今回だけは特別だった。 一之瀬くんに似合う女の子になりたい。ただそれだけのために、友達に付き合ってもらって化粧品を一通り揃え、やり方まで丁寧に教わった。 「秋、なかなか上手いじゃないの」 という友達の言葉が少し照れくさかった。 そして一之瀬くんが帰ってくる日。前日電話で連絡してもらった通りの時間に合わせて準備を始める。 この日のためにわざわざ買ったワンピース。それを身に付け慣れないメイクに手をつけた。 若いんだから、厚塗りは厳禁。その友達の言葉を思い出しながら、フェイスパウダーを軽く叩いた。 あくまで自然体。ナチュラルに。 一之瀬くんに会うことになったとき、自然と決まった私自身の課題。好きな人に会うときは緊張していつも通りの私じゃなくなってしまうから。 空港へ向かうバスの中、揺られながらその言葉を頭の中で繰り返した。 待っている間はとにかく苦痛だった。飛行機が到着する時間の20分も前に着いてしまったのだから仕方ない部分もあるけれど、とにかくじっと待つしかなかった。 幼なじみの一之瀬くんとはよく一緒に遊ぶ仲だった。アメリカにいたときはもちろん、彼が雷門に転校してきたときも一緒にいた。そしていつの間にか惹かれ合って、こんな関係である。 …いけない。なんだか恥ずかしくなってきた。 火照った顔をぱたぱたと手のひらであおぎながら、時間を確認。あ、もう飛行機が到着する時間だ。 「秋!」 その明るい声に振り向いたら、ずっとずっと待ちわびた彼の姿。 私はその影に向かって走り出した。 やっぱり私には、あなただけ。 |