恋慕の記憶




私が本当の私のことを思い出したと同時に、もう1つ思い出したことがある。

『私、守くんのお嫁さんになる!』

中学2年の今となっては顔から火が出るくらい恥ずかしい台詞だけれども、いつか本当にそうなったらいいな、って思った。



「冬っぺ!」
「なぁに、守くん?」

突然呼ばれて振り返ってみると、笑顔全開の守くんの姿。ボールを両手で持っているのだから、先程まで練習でもしていたのだろうか。

「って、どうしたのその傷!」

よく見るとその顔は傷だらけで、あちこち擦りむいている。見るからに痛そう。

「だからさ、手当てしてもらおうと思って」

守くんの指差した先にはベンチにある救急箱。周りを見渡してみても、グラウンドにいるのは私と守くんだけ。頼むのが私しかいなかった状況に少しがっかりしたけれど、なんだか嬉しかった。



「痛ってえええ!」

守くんの悲鳴がグラウンド中に響き渡る。顔は特に敏感な部分だ、とお父さんから聞いていたから私も消毒液を含ませた脱脂綿を軽く当てただけだったんだけど、かなり痛かったようだ。

「ご、ごめんね。大丈夫?」
「大丈夫、続けてくれ!!」

ぎゅっと目を閉じた守くん。なんだかそれがかわいくて、ぽんぽんと顔の傷に脱脂綿を当てていく。
すべての傷の消毒が終わり、一番大きな頬の傷に絆創膏を貼り、終了。

「ハイ、終わったよ」

そう言うと、ぎゅっと閉じていた目をぱっちりと開き、座っていたベンチから飛ぶようにして立ち上がった。

「サンキュー!」

その笑顔は、まるで太陽のように明るい。

「あ、そういえばさ」

何かを思い出したように再びベンチに腰掛けた。

「覚えてるかな、冬っぺと俺が小さいとき、冬っぺが『守くんのお嫁さんになる』って言っててさ」

顔から火が出るようだった。まさか、守くんまでそんなことを覚えているなんて。

「こういうことしてくれる人なら、嫁さんにしてもいいかもしれない!」

守くんは簡単に爆弾を放り投げ、そのままグラウンドで練習の続きを始めてしまった。
自然体と言うべきか、天然と言うべきか。小さい頃の私もそうだけれども、恥ずかしいことを簡単にやってのけてしまうから困る。

「お嫁さん、かぁ…」

お父さんやパパのお友達の結婚式でしか見たことのない、真っ白で綺麗なドレス。私もいつか、着るときが来るのだろうか。守くんの隣で。

「っ〜!」

考えただけで頬が熱くなる。

「あれ、どうしたんだ?熱でもあるのか?」
「え、な、何でもない!」

急に近くまで来ていた守くんにびっくりしながらも、考えていたことを悟られないように努めた。

「お、もうすぐ夕飯だ!行こうぜ!」

ニカッとした笑顔とともに差し出された手。いつか本当にこの手を取れたらなぁ、と思いながら、守くんの手を取った。



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