Sea.




たまには息抜きも必要だろう、とダイスケに連れられて海に来た。メンバーはもちろん大はしゃぎで海に飛び込んでゆく。ボクもそのあとを追おうとした、ときだった。
視界に入ったのはパラソル。真っ白で、日に焼けることのないようなパラソル。
その中にいたのはナツミだった。長い茶色がかった髪を手でかきあげる。その動作がなんだか女の子らしくてちょっとドキッとした。

「行かないの?ロココ」

その中から向けられた視線、突然の声に身体が跳ね上がる。それを見ていたナツミはくすくすと笑っていた。

「そんなに驚くことないじゃない」

でもナツミの笑った顔なんて珍しいからつい眺めてしまう。それに気づいたボクはこの状況をなんとかしようと、ナツミに話しかけた。

「ナツミは入らないの?海」

そう海の方を指差すと、砂浜で遊ぶやつもいれば、海に入って泳いでいるやつもいる。要は、各々好きなように遊んでいるのだった。

「せっかくなのにもったいないよ」

するとナツミは少し言いにくそうに、

「日に焼けるし、私は見ている方がいいから」

今度はボクが笑う番だった。だっておかしいじゃないか。いつもボクたちの練習は日傘無しで見ているというのに、こんな時だけ。

「な、何よ!笑うことないじゃない!」
「よっぽどサッカーが好きなんだね、ナツミは」
「え、どうして?」

誰が一体ナツミをこうさせたのか。答えは1つしかない。いや、1人か。
マモルだ。マモルがナツミをサッカー好きにしてくれたのか。
ナツミがよく話してくれるマモルの存在は、ボクにとってはライバル以上のものがあったのかもしれない、と今さら思う。
ナツミにサッカーを教えたのもマモル。大好きにさせたのもマモル。それがボクじゃないのが少し悔しかった。

「行こうよ、ナツミ!」

ナツミの腕を引っ張った瞬間、きゃ、と小さな悲鳴を上がる。それも構わず、2人で海に飛び込んだ。
でも、ここで大きな問題が1つ。ボクは当然水着を着ていた。海に入ろうとしてたし。あとは、ナツミだ。ナツミが着ていたのは白いワンピースで、中に水着を着ている、なんてあり得る状態ではなかった。
立ち上がって、ちょっと下を見てみると、びしょびしょに濡れたナツミの姿。
ヤバい、これは怒られる。そう思って固く目を閉じた。
でも聞こえたのは怒気に染まった声ではなくて、くすくす、という笑い声だった。

「私にここまでした人は初めてよ」

そう言いながら立ち上がり、ボクの手を腕から取り、その手で握り返してくれた。

「仕方ないから、遊んであげようじゃない」

そう言ってまた笑うものだから、ボクもつられて笑ってしまった。

ナツミはいずれマモルのところに戻ってしまう。でも今は、ナツミを絶対に返したくない、返さない。
だって、今こんなにボクのそばで笑ってる。この笑顔を、マモルに見せたくないボクがいた。



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