所有はいいんだけど




目覚めたときに感じたのは背中に触れている温もり。だるい頭をそっと起こしてみると、ぐっすり眠っている源田の顔。
それを見た途端、昨晩のことが鮮明に頭によみがえってくる。

『うああっ…!げんだ、げんだぁっ!』
『…っく、佐久間…』

脳内に響くのは自分の喘ぎと俺の名を呼ぶ源田の声。女みたいな声を出してしまったことに今更後悔したけれど遅い。だって昨日だし。仕方ないからもう一度ごろんと頭を布団に落とす。ぼすんと柔らかく包み込んだ布団は俺の頭に合わせて形を変え、ゆっくりとなじんでいく。そして、空に手を伸ばしてみる。意味なんてない。ただ、こうしたくなっただけ。二の腕の辺りからゆっくりと自分の腕を見上げていく。肘、手首、指先まで全て。そして内側にある赤い痣…なんてあったっけ?
見慣れぬその謎の痣をまじまじと見る。こんなところ虫にさされた覚えなどありはしない。と、いうことは。

「源田、てめぇ…」

小さな声で呟きながらその相手を睨む。だが源田は相変わらずの間抜け顔で寝ていた。ちくしょう、デコピンしたくなってきた。
あれ、ちょっとまて。こいつ、昨日どこにキスしてたっけ?
できる限り思い出そうとしたけれど、思い浮かばない。昨日は耐えるのに必死だったし。
でもまぁ、とりあえず…と思って掛け布団をほんの少し、つまみ上げてみた。そして中を覗いてみると、まず俺の腹の辺りに目が行った。昨日の名残とも言える白濁がすっかり乾いてこびりついていた。それにうわぁ、とか思いながらも視線を遠くに投げてみる。そして自分の脚の全体をしげしげと眺めてみた結果、

…げ。

この一言しか出て来なかった。
まず太ももに2つ、膝に3つ。ふくらはぎに至ってはいくつも。それも両足。
おい、今日の練習どうするんだ。ふくらはぎはソックスで隠せる。腕はなんとか誤魔化せる。でも膝から太ももにかけては何とも言えなかった。隠せねぇじゃん、これ。
そしてもう1つの不安がよぎる。恐る恐る立ち上がり、部屋で一番大きな鏡の前に立ってみた。

その結果、絶句。
首から胸の辺りに散る赤い痣。これはもうダメだ、誤魔化せない。うあああ…と頭を抱えていると、

「ん…?佐久間…?」

その間抜けな顔で間抜けな声を出した源田、頭を抱える俺を見て、

「あれ、こんなにつけたっけ俺」

その返答に思わず殴りたい衝動に駆られたがなんとか抑える。よく頑張った、俺。
そして1つ、仕返しの方法がひらめいた。

「お前も俺の苦しみを味わえ」

え、といった顔をした源田の首筋にかじりつき、俺と同じ跡をつけてやった。
そうしたら再び昨日と同じ目にあうわけだけれど、とりあえず、今日の練習はサボり決定だ。



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