小さな独占欲 落ち着け、これはどういう事態なんだ。 両腕を上に上げさせられ、その手首は縛られて。そしてベッドに押し倒されている。従って、天井しか見られない俺の視界の中にいるのは、よいしょ、と俺の上に乗り上げて来たミストレ。 わけがわからない。普通に話していたらトントン拍子に事が進み、気がついたらこうなっていた。ミストレはミストレで満足そうに俺を見下ろしてる。 「ミストレ、重い。退け」 「断る」 ニタリと笑う奴は何か企んでるに違いない。こんなときは、そう、あんまりいいことを考えていなかったりする。そうだ、絶対そうだ。前例だって山程ある。 「…おいそこのナルシストS野郎」 「それは俺のことか?」 「以外に誰がいるってんだ」 そりゃどうも、とクスクス笑われる。普通の奴ならここでかなりイラッとくるはずなのに、もっと見ていたいとか思った。そうか、これが美形の威力か。さすが美形。 「そろそろこんなことしてる目的を教えろ」 一瞬何のことかという表情になった後、ああそういうことか、というようにニヤリと笑う。 何故こんなにわかりやすいんだこいつは。 「エスカバを見下ろしたかっただけだ」 はぁ? お前いつも俺を嫌と言うほど見下ろして、いや見下してるだろ。しかもハンパないくらいの上から目線。俺がこいつと話すときの会話なんか、そういう関連のことしか覚えていない。 「ダメ…か?」 まるで寂しがる子犬のような潤んだ瞳で見られる。こいつこんな顔もできるのか。恐るべし美形。 「見下ろすも何も、最初っからやってんじゃねぇか」 「まぁ、そう言われればそうだけどな」 「気にせず続ければ?」 返事もせず、再び見られる。すると、ぽすん、とミストレの身体が落ちてきた。突然の出来事だったので、ぐぇ、と声が出る。 「君はもっと色気のある声を出せないのか」 「んなもん、俺に求める方が悪い」 だろうな、と囁かれる。さっきより近くなって、密着している。本当にわけがわからない。見下ろしたいと言ってきたと思ったら今度は密着。わかりやすいけど、わかりにくいこいつ。 「おいエスカバ」 「んだよ」 「君は、俺のものだ」 …と思ったら私物発言。 とりあえず言っておこう、俺は物じゃない、人間だ。しかも男。あるものはあるし、ないものはない。 でも、ミストレに惹かれてるのだって事実。仕方ないだろ、こんな風に見られるんだから。 「はいはい、わかったよ」 呆れたように返事をしておけば、満足そうなミストレ、俺の顔の近くまで這い上がり、額にキスを落としていった。 |