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その瞳を見ると、私はもう逃げられない。
だから、あわせてはいけないの。
その熱い視線を…。



今日も私は、誰もいない教室からテニスコートを見ている。
遠くからでもよくわかる、綺麗な赤い髪。
テニスコートにいる、あの人を。
一目惚れなんてしない。そう思っていたのに。
あの宝石のような赤い髪に、目を離せなくなった。
どんな風に笑うのか、どんな声で言葉を紡ぐのか。考えることはいつも、彼のことだった。

ある日の放課後。
彼をもっと近くで見てみたい。
そう思った私は、そっとテニスコートに近付いてみた。
彼は丁度試合を終えたあとらしく、頭からタオルを被って呼吸を整えていた。
顔を紅潮させ、汗で髪を頬に張り付けた彼は、(男の子につかうのは可笑しいかもしれないけど)とても色っぽくて目が離せなくなってしまった。(彼に見つかってはいけないのに、)
私は足を止め暫く彼を凝視していると、彼は私の視線に気付いたのか、ゆっくりと顔を上げた。

彼の目が、私の姿を捉える。
爪先から、ゆっくりと上にたどってゆく。
彼の瞳に映っていると思うと、その部分が熱をもつ。



「……お前…?」

「ぅ、あ…っ」



彼の瞳が、私の顔を捉える。
目が、あってしまった。もう逃れられない。
彼の瞳に囚われてしまった。



「ご、め…なさっ……」

「ちょ、おいっ!」



私は踵を返し、もと来た道を走った。
あのまま彼の瞳に囚われたままだったら、私は二度と戻れなくなる。
私はこれ以上、あの瞳に囚われてはいけない。

気付いたらもう夕暮れ。すぐに日が沈んでしまう。
もう帰らなければ…
私は荷物をまとめ、もう一度テニスコートを見る。
すぐに赤髪は見つかった。



「あ…」



見ていた。

目があってしまった。

彼が、私を見ていた。

見つかってしまった。

私はカバンを掴むと、彼に背を向けた。



「おい!お前待てよッ!」

「あ…っ、その…」

「いつもこの教室にいたのに、あのときお前はコートのそばにいた」



あのときのことだろう。
まだ覚えていたんだ…出来れば忘れて欲しかったのに…。



「あのとき、俺は気付いたんだ」

「え…?」



窓から差し込んむ夕陽に彼の髪が照らされて、キラキラと光っている。
それを見て、私の顔はまた熱をもつ。



「俺は、お前がすきだ」

「…あ……」

「俺は、お前が好きだ」

「わっ、私も…ずっと、丸井くんが好きだ、……っ」



好きだった、

言い終わる前に、私は丸井くんに抱きしめられて、最後まで言葉を紡ぐことはできなかった。
私は、おそるおそる彼の背中に手をまわす。すると彼は、さらに力を入れて私を抱きしめた。



「好きだぜぃ、名前」

「ど、どうして名前…」



最後まで言葉を紡ぐ前に、ニッと笑った彼の唇に、私のソレは塞がれてしまった。





(私はもう、逃れられない)


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この作品は、素敵企画サイト『恋かもしれない』に出展させていただきました。
寺子屋エマ様、素敵なお題を提供していただき、有り難うございました。

2007.10.10
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